すべての花へそして君へ③


 お姫様のピンチに駆け付けるのは、白馬に乗った王子様。王道の物語は、大抵そう相場が決まっている。わたしは姫よりヒーローになりたいけど。
 ま、それについては今はさておこう。


(……えっと)

「くっ、……日下部」


 でもまさか、彼が駆け付けてくれると思っていなかったので、わたしは何度も自分の目を疑ってしまった。


「欲望がダダ漏れです。お誘いをかけるなら、もうちょっとお勉強された方がいいと思いますねえ」

「そ、それは……」

「それに彼女、恋人いらっしゃいますし」

「えっ」


 そんなこと一言も……そう言いたげな視線が、泣きそうな顔で送られてくる。い、いや。言おうとしたのだけど、そのタイミングでカオルくんが来ちゃったんだよね。
 でも、傷付けちゃったのは本当のことだから。一応謝っておこう。お誘いも、受け取れないことも含め。


「だから言ったじゃないですか。“勉強不足”だと」

「……っ」

「あ、ちょっと……」


 堪えきれなくなった彼は、カオルくんの言葉から逃げるようにわたしの手を振り払い、一心不乱でこの場から去って行った。
 そしてその背中を面倒くさそうに見送ったカオルくんは、一つため息を落として気怠げに無線機を持つ。


「此方は外れでした。アイさん、そちらはどうですかあ?」


 ……外れ?


 ――――――…………
 ――――……


 それからすぐ。無線機から威勢のいい声が聞こえ始める。
 そして続いて聞こえた『確保!』の声に、彼は一つ息を吐いた。


「……百合ヶ丘の生徒に、成り済ましている参加者が?」

「はい。まあ絶好の機会でしょうから。何が、とは敢えて言いませんが」


 どうやらようやく、状況を説明してくれるらしい。
 パーティー会場までの人気のない静かな廊下を、二人でゆっくりと歩いて行く。なんだか、今思えば変な組み合わせだ。

 聞くところによると、協力者の手引きによってその犯人は侵入を謀ったようだ。そして、その協力者はパーティーの参加者。加えて女性。そこまでは絞り込んでいたらしいが……。


「あの、付かぬ事をお聞きするんですけども」

「……? はい、何ですう?」

「この件誰かにご協力してもらっていたりします? 桜の生徒で」

「危険は非常に少なかったと判断したので。タカトさんがあなたのエスコート役に回ってしまったので、適任がいなかったものですからあ」


 一応、内密にとお伝えしておいたんですけどねえ。

 うーんと考え込んでいるカオルくんに、直接聞いたわけじゃないからと、わたしが勝手にそう思っただけだからと、訂正しておいた。
 ……今度謝っておこう、カナデくんに。平に平に。