けれど、こんな風に悪態をつけていたのはいつまでだったか。すぐに変われるほど、オレは強くはなかった。
日に日に多くなる、血だまりの赤い夢。それはもう、うたた寝するのさえ怖いほどに。
弱いが故に。怖いが故に。オレは何度夢の中で、愛しい人の命を奪ってしまっただろうか。
『――……九条くん!?』
それさえも、自分が許せなくなった。
日に日に、稽古をしている意味が変わっていった。ただ、死んだように眠るための手段に過ぎなくなった。
日に日に、彼女と一緒にいることが苦しくなっていった。彼女を信じきれていない自分が、心底嫌になった。
『ひなた。……ちょっと聞け』
そんな状態になってとうとう倒れてしまったオレに、ミズカさんは近付いてやさしく手を差し伸べた。
あいつと少し、距離を置くのも手だぞ……と。
『ミズカさん!? 何言ってるんですか!』
『何も別れろって言ってるわけじゃない。けどな、そんな状態だとオレが心配なんだ。あおいだってすぐに気付いて、それこそ畳み掛けるように訊いてくるぞ』
『……でしょうね』
『九条くん! そんな馬鹿なこと絶対したらダメだ!』
『そう……だろうね』
『九条くん……』
『普通なら……普段なら絶対、しないんだけどね』
けれど、それしか方法がないと思えるほどには、自分でもかなり重症だということがわかっていた。それをわかっていて、あいつが傷付くかもしれないとわかっていて、彼はそう提案してくれたんだ。
アイも、口ではそう言っていてもわかっているんだ。だって、弱いオレの相手を、いつだって嫌がらずにしてくれるんだから。
『ただ、ずっとというわけにもいかない。わけを知らないあいつが限界になるぞ』
『大丈夫ですよ。多分すぐ、オレの方が限界になる』
『……ねえ九条くん』
『ん?』
『俺との約束、ちゃんと覚えてる……?』
真剣な顔をしてじっと見つめてくる彼は、オレなんかよりもよっぽどつらそうに見えた。今にも泣き出しそうに見えた。
一度、ゆっくり深呼吸してから、そんな彼を真っ直ぐ見上げた。
『うん大丈夫。オレの口からちゃんと言える』
『……あおいさん泣かしたら、絶対許さないからね』
『それは無理だよ。オレ、あいつの泣き顔好きだから』
『悪態つける元気が残ってるみたいで何よりだよ』



