わたしは徐に、手に持っていた飲み物へと口をつける。思わず、笑みがこぼれてしまった。
「ニヤニヤしてんぞ」
「あらら、いけない」
「何だよ。言いたいことがあるならはっきり言え」
「ん? ふふ。ありがとう」
「そりゃ俺にじゃなくて直接言ってやれ」
「あはっ。……うん、そうだね」
口いっぱいに広がったはちみつレモンが、溜まった今までの疲れを一気に吹き飛ばしてくれた。
でも、今はこれ以上はやめておこう。笑いを通り越して、感極まって泣いちゃいそうだから。
「それで? 御偉方には何て言ってるんだ?」
「ん? それはそれは、とても感動的な物語をだね、詳らかに」
「だいぶ盛ってんなこりゃ」
「でもとっても平和的解決でしょう?」
ま、その辺はご想像にお任せするとしましょう。
「もうちょっと遣り様はなかったのか?」
「そう? わたしはこれ以上ないと思ったけど」
「大勢の人に囲まれながら、いつ終わるかもわからない尋問に遭うなんて、まっぴらごめんだよ俺は」
「確かにあれはつらかったけど……」
でも、このことに関しては、先延ばしにしていいことなど一つもないのだ。
仮に人を捌く量が軽減されたとしても、噂というものは人の心を、とんでもない方向へとねじ曲げてしまうことだってある。事実、わたしたちは自分たちを守るため、世間には大きな嘘をついて回っているのだ。
人の噂ほど、怖いものはないのだから。
「だから、これでいいんだよ。今大変でも、短い間でできるだけ沢山の人に、理解してもらえれば」
そうすれば、他の人たちに迷惑をかけることも少なくなる。そうすれば、残った時間を有効的に使える。
……わたしたちにはまだ、しなくちゃならないことがあるからね。
「アオイちゃんやこの件に関係してる人たちが納得してるんなら、俺らは何も言わないよ」
「あ、カナデくん。白目からおかえり」
「応援してるからね。頑張れ」
「……うん。ありがとう」
「だな。……それで葵、お前の用件だけど」
「え? ……ああ! そうそう、あのね――」
再びわたしの邪魔をしてきたのは、会場の賑やかさだった。
誰かが、アナウンスをしている。何かあったのかと思い、用件はさておいてわたしは聞き耳を立てた。
「……ゲーム?」
「ああ、そういやさっき小耳に挟んだな」
そんな催し物を用意していたとは。どうやら何かがはじまるらしい。
『――……以上で、簡単な説明は終わります。皆様是非、奮ってご参加ください』
ざっくりと説明すると、謎を解いて指定された場所に辿り着くと、そこにお宝が眠っているらしい。わたしらがクリパでやったのと似た感じかな?
「お前いなかったけどな」
「それに関しては、本当に残念で仕方がないですよ」
動画を見る限り、今年も大成功だったようで何よりですが。
「あ、そういえばアオイちゃん、チカちゃんに会った?」
「そのことで、一つお聞きしたいことがあるんですがね」
「大変そうだったぞ」
「……仕事的な意味で?」
「「逃亡的な意味で」」
「ですよね!」
あああ残念。非常に残念。



