すべての花へそして君へ③


 わたしは徐に、手に持っていた飲み物へと口をつける。思わず、笑みがこぼれてしまった。


「ニヤニヤしてんぞ」

「あらら、いけない」

「何だよ。言いたいことがあるならはっきり言え」

「ん? ふふ。ありがとう」

「そりゃ俺にじゃなくて直接言ってやれ」

「あはっ。……うん、そうだね」


 口いっぱいに広がったはちみつレモンが、溜まった今までの疲れを一気に吹き飛ばしてくれた。
 でも、今はこれ以上はやめておこう。笑いを通り越して、感極まって泣いちゃいそうだから。


「それで? 御偉方には何て言ってるんだ?」

「ん? それはそれは、とても感動的な物語をだね、詳らかに」

「だいぶ盛ってんなこりゃ」

「でもとっても平和的解決でしょう?」


 ま、その辺はご想像にお任せするとしましょう。


「もうちょっと遣り様はなかったのか?」

「そう? わたしはこれ以上ないと思ったけど」

「大勢の人に囲まれながら、いつ終わるかもわからない尋問に遭うなんて、まっぴらごめんだよ俺は」

「確かにあれはつらかったけど……」


 でも、このことに関しては、先延ばしにしていいことなど一つもないのだ。
 仮に人を捌く量が軽減されたとしても、噂というものは人の心を、とんでもない方向へとねじ曲げてしまうことだってある。事実、わたしたちは自分たちを守るため、世間には大きな嘘をついて回っているのだ。
 人の噂ほど、怖いものはないのだから。


「だから、これでいいんだよ。今大変でも、短い間でできるだけ沢山の人に、理解してもらえれば」


 そうすれば、他の人たちに迷惑をかけることも少なくなる。そうすれば、残った時間を有効的に使える。
 ……わたしたちにはまだ、しなくちゃならないことがあるからね。


「アオイちゃんやこの件に関係してる人たちが納得してるんなら、俺らは何も言わないよ」

「あ、カナデくん。白目からおかえり」

「応援してるからね。頑張れ」

「……うん。ありがとう」

「だな。……それで葵、お前の用件だけど」

「え? ……ああ! そうそう、あのね――」


 再びわたしの邪魔をしてきたのは、会場の賑やかさだった。
 誰かが、アナウンスをしている。何かあったのかと思い、用件はさておいてわたしは聞き耳を立てた。


「……ゲーム?」

「ああ、そういやさっき小耳に挟んだな」


 そんな催し物を用意していたとは。どうやら何かがはじまるらしい。


『――……以上で、簡単な説明は終わります。皆様是非、奮ってご参加ください』


 ざっくりと説明すると、謎を解いて指定された場所に辿り着くと、そこにお宝が眠っているらしい。わたしらがクリパでやったのと似た感じかな?


「お前いなかったけどな」

「それに関しては、本当に残念で仕方がないですよ」


 動画を見る限り、今年も大成功だったようで何よりですが。


「あ、そういえばアオイちゃん、チカちゃんに会った?」

「そのことで、一つお聞きしたいことがあるんですがね」

「大変そうだったぞ」

「……仕事的な意味で?」

「「逃亡的な意味で」」

「ですよね!」


 あああ残念。非常に残念。