すべての花へそして君へ③


 それって、そもそも拾った言葉を誰かに伝えていいものなのか? というか聞いちゃ不味いのでは――そう思っていた矢先、バシンともう一発、頭にチョップを食らう。さっきから、人の頭をなんだと。


「やっぱやーめた」

「ひ、人の頭殴っておいてなんだそれは」

「病み上がりなんだから無茶すんなよ」

「その病み上がりにチョップしてくるのはどこのどいつだ」


 文句もそこそこに、ちょっと来いと腕を掴んだ彼は、人と人の間をすり抜けるようにどこかへわたしを連れていく。い、一体どこに行くんだ。


「休憩だ休憩」

「いや、休憩って……」


 行き着いた先は上から下まで大きなガラス窓になっているカーテンの目の前。そしてそれをちらりと捲ってよくよく見れば、その向こうには広々としたバルコニー。……え。まさか、ここに出ろって言うんじゃ。


「ちょっと待ってろ」

「つば――、えぇえー……」


 今度は文句さえまともな言葉にならないまま、扉から突き飛ばされた。そして閉め出された。……なんて仕打ち。
 息は真っ白。雪もちらちら。誰が好き好んで、この薄着で寒空の下に出る人が――


「――くしゅん」

「え」


 あら可愛いくしゃみ。てかいたし、人。
 バルコニーの隅っこに、何やら小さな塊が。目を凝らすとうっすら積もった雪の下に、黒いスーツのようなものが見える。


「……あれ。アオイ……ちゃん?」

「その声は……か、カナデくん?!」


 聞き覚えのある声が、しかとわたしの耳に届いた。さっきまで全然微動だにしていなかったが、どうやらちゃんと意識はあるようだ。……にしても何でわざわざこんなところに。


「このガラス、マジックミラーになってるっぽくって」

「でも、寒いでしょ? カナデくんちょっと震えてるよ」

「……しかも俺のいる場所、ちょうど死角なんだよね。へへへ」

(彼は、一体何に狙われているのだろうか……)


 そうこうしていると、ツバサくんがコートを片手にバルコニーへと出てくる。彼も、カナデくんがいたことは知らなかったようで、一体何してるんだと眉間に皺を寄せた。


「お前にもいろいろ事情があるように、俺にも俺でここにいなくちゃいけない理由があるんだ」

「訳わかんねえこと言ってんじゃねえよ」