それって、そもそも拾った言葉を誰かに伝えていいものなのか? というか聞いちゃ不味いのでは――そう思っていた矢先、バシンともう一発、頭にチョップを食らう。さっきから、人の頭をなんだと。
「やっぱやーめた」
「ひ、人の頭殴っておいてなんだそれは」
「病み上がりなんだから無茶すんなよ」
「その病み上がりにチョップしてくるのはどこのどいつだ」
文句もそこそこに、ちょっと来いと腕を掴んだ彼は、人と人の間をすり抜けるようにどこかへわたしを連れていく。い、一体どこに行くんだ。
「休憩だ休憩」
「いや、休憩って……」
行き着いた先は上から下まで大きなガラス窓になっているカーテンの目の前。そしてそれをちらりと捲ってよくよく見れば、その向こうには広々としたバルコニー。……え。まさか、ここに出ろって言うんじゃ。
「ちょっと待ってろ」
「つば――、えぇえー……」
今度は文句さえまともな言葉にならないまま、扉から突き飛ばされた。そして閉め出された。……なんて仕打ち。
息は真っ白。雪もちらちら。誰が好き好んで、この薄着で寒空の下に出る人が――
「――くしゅん」
「え」
あら可愛いくしゃみ。てかいたし、人。
バルコニーの隅っこに、何やら小さな塊が。目を凝らすとうっすら積もった雪の下に、黒いスーツのようなものが見える。
「……あれ。アオイ……ちゃん?」
「その声は……か、カナデくん?!」
聞き覚えのある声が、しかとわたしの耳に届いた。さっきまで全然微動だにしていなかったが、どうやらちゃんと意識はあるようだ。……にしても何でわざわざこんなところに。
「このガラス、マジックミラーになってるっぽくって」
「でも、寒いでしょ? カナデくんちょっと震えてるよ」
「……しかも俺のいる場所、ちょうど死角なんだよね。へへへ」
(彼は、一体何に狙われているのだろうか……)
そうこうしていると、ツバサくんがコートを片手にバルコニーへと出てくる。彼も、カナデくんがいたことは知らなかったようで、一体何してるんだと眉間に皺を寄せた。
「お前にもいろいろ事情があるように、俺にも俺でここにいなくちゃいけない理由があるんだ」
「訳わかんねえこと言ってんじゃねえよ」



