「ま、また後で来るわ」と、去り際に頭を撫でていったツバサくんは、どうやらわたしの言いかけたことを気にしてくれているみたいだ。
うーん、それはそれでなんだか申し訳ないけど。でももしかしたらツバサくんの方が用事あるのかもしれないし、気にしないでおこう。
「それで、お父さんのご用事は? 伝え忘れたことって?」
「ああ。もういいよって言いに来た」
「……別にかくれんぼしてないけど」
「もう俺について仕事しなくても大丈夫だよ。気にしてくれてたみたいだから」
ありゃま。まるっとすべてお見通しだったらしい。
さすがですね。その辺も一応、父譲りと言ったところか。
「でもわたし、今夜はそのつもりで来てたから寧ろお父さんの方こそ気にしないでよ。お父さんの仕事してるところ、見るのもわたし楽しみにして――」
「いや、お父さんもう帰るから」
「……お父様。さっき散々体裁忘れてうちのブランド下げまくったこと、お忘れなのかしら」
「いやいやいや! 忘れてないから、これ以上墓穴を掘るまいと思ってですね」
「……まあ確かに」
「そうすんなり認められるのはちょっと寂しい……」
この雰囲気にちょっと慣れてきた感があるからか。父だけではなくわたしもさっきから次々とボロを出てしまっている。
それならわたしも、今夜はこの辺でお暇した方がいいのだろうか。……まだ、何もしていないのに。
「あおいが自分を取り繕うようなことはしなくていい。ありのままの自分を見てもらっておいで」
「……でも、お父さんは?」
「お父さんはほら、社長さんだから。ポンコツだってバレたら不味いでしょう」
(自分でポンコツ言うたよこの人……)
でも、時計を確認したらもう結構な時間だ。粗方顔を見せておくべき人たちに挨拶や応対は出来たと思うから、今日の業務はこれで終了で大丈夫かな。これ以上いても、同じ会話を繰り返すだけだろうし。
それに今夜は収穫だってある。母もきっと、喜んでくれるであろう。
「お母さん体調の方は?」
「心配しなくても大丈夫。くるちゃんのことは俺に任せて、折角のパーティーなんだ。お前は、心行くまで楽しんでおいで。いいね」
「わ、わかったよ。お母さんのこと、よろしくね」
「ああ。いい報告、待ってるからな」
全くもう。そこまでまるっとお見通さなくていいのに。



