斯く言うわたしも、すっかり周りへの体裁を忘れていた一人だ。しかも、シントと軽く喧嘩したあと彼の人格は崩壊してしまったが、仲直りしたため話しかけやすい雰囲気が出ていたのだろう。朝日向との契約を何としてもゲットしたい営業マンや、噂話の真相を確かめたくて仕方がない暇人マダムたちに捕まってしまうという。
何故こうも学習しないんだ、わたしたち……。
「……ああ、そういえば。少し小耳に挟んだのですがな」
またか――そう思った時、肩にそっと手が触れる。
振り返ったそこには、九条大臣が精悍な顔付きで立っていた。
「おお、これはこれは九条議員」
「ご無沙汰しております。朝日向くんも、先日は愚息がお世話になりまして」
「いえとんでもないです。寧ろお世話になったのは此方の方で」
立ち居振る舞いとても自然な流れで彼は会話にすんなりと入り、そして、そっとわたしだけをそこから弾き出す。
弾かれたその先で、背中が誰かにぶつかった。
「すみま、……あ」
「よ」
「ツバサくん。ちょっと久し振り」
「思ったより元気そうじゃん」
「今ね、さすがだなって、感動してたの」
「そりゃどーも。親父に伝えておくよ」
誇らしげな彼に、頬が緩んだ。
「今日はドレスじゃないんだね」
「今日はって何だよ」
「え? だって皇のパーティー行った時、ツバサくんドレスだったでしょう?」
「会ってもねえのになんで知ってんだよ」
「見つけられるよー。だって、大好きなみんなのことだもん」
「……いや、正直あの時は紫蘭さんに俺いじられてただけだから」
「それで着こなしちゃうんだもんね。ドレスはもらったって聞いたけど、その後着る予定は?」
「取り敢えずはねえな。今んとこ」
「えー残念」
「本気で残念がるな」
取り敢えず今んとこらしいので、密かに今後に期待をしておこう。可愛いものも好きだが、美人は見るだけで目の保養になるから。
「それはそうとツバサくんに聞きたいことが――」
「あ、いたいた。あおいー」
「あれ? お父さんどうしたの?」
「ちょっと伝え忘れ。ああ、あとつばさくんも。九条さんがもう一回顔出して欲しいって。藤原さんにご挨拶しに行くって言っていたよ」
「わかりました。すみませんわざわざ」
父にそう答えると、彼は一度此方をじっと見つめてきた。……顔に何か付いてるのかな。
「――ハッ! 化粧直ししてなかった!」
「……ある意味、直した方がいいっちゃいいけど」
「や、やっぱり崩れてる? 悲惨なことになってる?」
「別に、直すとこねえよ。あるとしたら頭くらい」
「いやあ。それができたらわたしも苦労しないんだ」
「おいおい否定しろよ」
「しょうがない、その辺は父親譲りだからね」
「ははは! そうだねー」
「朝日向さんも否定してください……」



