すべての花へそして君へ③

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 ――わたし、……舟、好きじゃないんだ。


「うん。……知ってるよ?」


 勇気を出した言葉は、父親の優しい笑顔にくるんっと包まれて、あっという間に消えてった。ついでに緊張と遠慮もだ。
 ……お父さんって、すごい。


「俺のせいだもんね……」

「こらこらしょげない」


 しょっちゅうネガティブスイッチ押すけど。まあ父の場合、ポジティブスイッチの方が、頻繁に押されるか。
 あまりにもギャップがありすぎな父に、思わずぷっと噴き出して笑う。


「でもわたしね? 海は大好きなの」


 確かに、朝日向は日本一の大企業かもしれない。でも、やっぱり高度な専門技術を持っている人たちには到底敵わない。


「ほおーそうだったのか」

「うん。だからまた、会いに行きたいなって思って」


 高度な技術。専門知識。強度。耐久性。船を建造する上で、小鳥遊の右に出るものはいない。こんなところで、道明寺にいた頃が役に立つなんて。変な巡り合わせだ。
 初めは驚いたけど、父ならわたしが小鳥遊さんのことをしっかり調べていたことも、いろんなことを鑑みて依頼をしたこともわかってる。


「成る程。なら今度、俺にも会わせてくれる?」

「うんっ。みんなで会いに行こうね!」


 聞きたかったのは、きっとこういうこと。それから、言いたかったんだと思う。会いに行きたいって。
 きっと向こうも会いたがってるから、紹介してあげなくっちゃ。


「それで、お父さんは?」

「ん?」


 聞いて……言えてすっきりしていたのか、一瞬頭の中から抜けていたらしい。ああと、父は可笑しそうに笑った。


「ああでもしないと、小鳥遊さんがあおいの有りっ丈の知識に押し潰されると思ったから」

「あら酷い」

「初めからうんと頷いとけばよかったって、後悔しても遅いくらいには言葉責めだけで倒産に遭った気になってしまうから」

「そんなことないと思うけど」

「最終的には、これでもかというほど痛めつけられて、日本の地をもう踏むことさえ許されなくなって亡命するしかなくなるから?」

「いやいやさすがにそこまでは」


 したことがないとは言えませんが。


「あとは、俺があおいの父親で、あおいが俺の娘だから」

「……え?」


 ――父親としては、娘の願いは全力で叶えてあげたいわけですよ。

 嬉しそうに笑う父に、どうしようもない親馬鹿だなあと。そう思う反面、わたしも嬉しさが込み上げてくる。おかげで、十八番は使わずに済んだのだから。


「でも小鳥遊さんがいい人で本当によかったね。初めに提示した分で成立したけど、もし五倍十倍の額になってたらどうするつもりだったの?」

「あおい。商談には、時に賭け事も必要なんだよ。キラリン」

「キラリンじゃないから。……お母さんの雷が落ちるだけじゃ多分済まなかったよ。一応報告は上げとくからね」

「ええ!? そ、そんなところまで報告しなくてもいいんだよ?」

「わたし、仕事って報連相が一番大事だと思ってるの」

「ちょ、ま、待つんだあおい。冷静にな――」

「お母さんには、いつかお父さんが大博打するかもしれないって。離婚を考えた方がいいかもって相談もしておくから」

「なんでそこまで!?」


 ゴミを見るような目に、父は周りへの体裁も忘れ、暫くの間わたしの足元に這い蹲って赦しを請うていたのだった。