すべての花へそして君へ③


『そうか。ひなたは変わるのが怖いんだな』

『……変わる、ですか』

『変わったら何か都合の悪いことでもあるのか』

『変わったら……正直今、あいつに嫌われること以上に怖いことなんてないで――『ブハッ!』……何で笑うんですか』

『いや。どうやったらあいつが、お前を嫌いになるのかなと』

『わかりませんよ。人の気持ちも七十五日』

『そりゃ噂だ』

『……変わったら、亡くしてしまうものがありそうで』

『変わったらそれ以上に得られるものもある』

『そうでない場合もありますよね』

『だから怖いんだろう? お前は無駄に頭が良いからな。だからリスクがあるなら、現状維持を選ぶんだよ』

『無駄にって……』

『でも、オレに頼んできたのは、変わりたいからだろう。なら変われ、ひなた。お前が変わったところで、帰ってきたあいつが愛想尽かすこたねーよ』


 ……変われるだろうか。いや、変わらないといけないんだ。
 あいつの背中を、最後までちゃんと、見送るためにも。


『変わりたいです。絶対アイに勝つ』

『……ま、頑張れよ』

『ミズカさん。自分よりも圧倒的に強い奴に勝つためには、一体どうしたらいいですか?』

『アイ……じゃねーな。誰だ』

『めっちゃ腹立つ奴。ヘラヘラしてるくせにオレじゃ守れないとか言って、オレの目の前であいつのことナンパしやがった』

『誰だそいつ。一遍連れてこい。オレがちびらせてやる』

『いや、オレが勝てる方法……』

『んなもんわかるか。自分で考えろ』

『酷い! ミズカさんが匙投げた!』

『そりゃ投げたくもなる。オレは何回もお前に言ってきたはずだ』


 そう言って笑った彼の笑顔が、記憶と重なった。頭を撫でる、ゴツゴツした手が懐かしかった。

“――お前はお前のやり方で守ってやってくれ”

 頭の中で、声がこだました。


『……ふっ』

『……おい、悪い顔してんぞ』

『何言ってるんですか。イケメン捕まえといて』

『やっぱお前大物だわ。向かう所敵なしどころか逃げてくわ』

『今度湧いて出てきやがったら、容赦なく畳み掛けてやる』

『(……こいつに敵うのはせいぜい、あおいくらいだろうな)』