『そうか。ひなたは変わるのが怖いんだな』
『……変わる、ですか』
『変わったら何か都合の悪いことでもあるのか』
『変わったら……正直今、あいつに嫌われること以上に怖いことなんてないで――『ブハッ!』……何で笑うんですか』
『いや。どうやったらあいつが、お前を嫌いになるのかなと』
『わかりませんよ。人の気持ちも七十五日』
『そりゃ噂だ』
『……変わったら、亡くしてしまうものがありそうで』
『変わったらそれ以上に得られるものもある』
『そうでない場合もありますよね』
『だから怖いんだろう? お前は無駄に頭が良いからな。だからリスクがあるなら、現状維持を選ぶんだよ』
『無駄にって……』
『でも、オレに頼んできたのは、変わりたいからだろう。なら変われ、ひなた。お前が変わったところで、帰ってきたあいつが愛想尽かすこたねーよ』
……変われるだろうか。いや、変わらないといけないんだ。
あいつの背中を、最後までちゃんと、見送るためにも。
『変わりたいです。絶対アイに勝つ』
『……ま、頑張れよ』
『ミズカさん。自分よりも圧倒的に強い奴に勝つためには、一体どうしたらいいですか?』
『アイ……じゃねーな。誰だ』
『めっちゃ腹立つ奴。ヘラヘラしてるくせにオレじゃ守れないとか言って、オレの目の前であいつのことナンパしやがった』
『誰だそいつ。一遍連れてこい。オレがちびらせてやる』
『いや、オレが勝てる方法……』
『んなもんわかるか。自分で考えろ』
『酷い! ミズカさんが匙投げた!』
『そりゃ投げたくもなる。オレは何回もお前に言ってきたはずだ』
そう言って笑った彼の笑顔が、記憶と重なった。頭を撫でる、ゴツゴツした手が懐かしかった。
“――お前はお前のやり方で守ってやってくれ”
頭の中で、声がこだました。
『……ふっ』
『……おい、悪い顔してんぞ』
『何言ってるんですか。イケメン捕まえといて』
『やっぱお前大物だわ。向かう所敵なしどころか逃げてくわ』
『今度湧いて出てきやがったら、容赦なく畳み掛けてやる』
『(……こいつに敵うのはせいぜい、あおいくらいだろうな)』



