それからようやく約束の、『父へ、美味しそうなご飯を選んじゃるわい』を実行に移していると、俺も俺もとせがんでくる奴がいたので、それに関しては、「自分でおやりなさい」と、冷たく言い放っておいた。
「それではアイさんの分は、ぼくが取ってあげますう」
「い、いいよカオル。自分でするから」
因みに、“俺も俺も”の中には彼も入っていました。
さて。少し落ち着いたので小休憩、と言ったところだろう。軽食を食べているみんなを眺めていると、何故か心配そうに視線を返された。そんなにお腹空いてるように見えるのかな。
「……さっきのって、結局どう処理すればいいの」
「どうって……」
そんな中、クリームチーズとマーマレードが乗ったクラッカーを口に運びながら、シントが小さく口を開いた。
「嘘泣きでおかえりと言われた俺は、少し心が複雑だ」
「おう、成る程。そういうことか」
どうやら拗ねているらしく、根にも持っているらしい。やれやれわたしの周りの男共は、どいつもこいつも子供っぽい。
ま、前からよくよく知っていたけど。それが可愛いから、特に何も言わないんだけど。
「……嘘泣きとは、ちょっと違うんだなあこれが」
だって、思い出したら本当に泣けてきちゃったんだから。気付いたら涙がぽろぽろ零れてたんだから。
「でも、目の前にいるシント見たら、つい笑っちゃって」
「だから慌てて隠しに行ったけど、それどういうことなの」
「……シントさんとの、楽しかった頃の思い出を思い出した?」
「シン兄にかけた技の数々を思い出していた」
「ただ単に皇さんの顔が面白かったんじゃないですう?」
「「それか」」
「こらそこ。今すぐやめないとお兄さん怒るよ。それか泣くよ」
「……泣くのはめんどくさいよね」
「ち、ちょっと。葵までそんなこと言うのやめて。本気で泣くから」
今を、こうしていられるのを、あの頃のわたしはずっと夢に見ていた。
「ねえシント」
「……何。今度変なこと言ったら本気で泣くからね。どうなってもしらないからね」
もう、隠れてこそこそする必要はない。こんなにも大勢の前で、堂々としていられる。話し合える。笑い合える。友達だと実感できる。
「――え。あ、葵……?」
「おかえり」
「……」
「おかえりなさい、シント」
ただね、わたしはそれが、嬉しくて嬉しくて仕方がなかっただけなんだよ。



