すべての花へそして君へ③


「アキ、父さん小鳥遊さんのところにいたよ」


 いつの間にか少し離れていた兄は、この人混みの中目敏く父を見つけていたらしい。そろそろ時間か。


「あの、シントさん」

「……アキ、紀紗ちゃんごめん。ちょっとだけ日向くん借りるね」

「ん? ああ」

「はーい。じゃあその間秋蘭借りときますね」


 少し可笑しそうに返事をした兄は、日向を連れ人混みに姿を消した。まあ兄のことだ。俺のこともすぐ見つけるだろう。下手には動くまい。


「そういえばさっき、有栖川理事長と話をしてきたんだ。何かゲームを用意してるらしい。賞品もあるとかないとか」

「それ、桜の専売特許じゃなかったんだね」


 そう言って一度やれやれと肩を竦めたかと思ったら、紀紗は「あれ?」と何かに気付いたのか、不思議そうに首を傾げた。彼女の声が、俺にしか聞こえないほど小さくなる。


「……あたしの勝手な想像だけど、百合ってあんまりそういうの興味ないのかと思ってた」


 多分、彼女の思った通りだ。ここに集められた人だって、ほぼ全員が立場のある人間。少々の賞品ならゲームの価値すら感じないだろうし興味も出ない。よっぽどのことがない限り話も聞かないだろうから、参加する人はまずほとんどいないだろう。
 それに俺らも、招待されている身ではあるが、だからこそそう簡単に付き合いをほったらかしにしてゲームに参加するわけにもいかない。企画と言えど、余興のようなものらしいし。


「ま、付き合いよりも企画してくれた人の気持ちを汲む、希有な奴も中にはいるだろうけどな。一人くらいは」


 その独り言に、紀紗はふっと可笑しそうに笑った。確かに、あれは希有だわと。


「アキ、そろそろ行くよ」

「ああ。今行く」


 それに俺も笑みで返し、帰ってきた兄と共にその場を後にしたのだった。

 少し前を歩く兄の背中を、僅かに足を早め追いかける。
 いつだってそうだった。大好きな兄は常に、人の一歩先を進んでいた。


(俺は、本当に兄の力になれるのか? 共に再建、できるのか)


 次期当主の座は荷が重すぎる。いや、そもそも向いていないのだ。
 俺には、兄ほど一歩先のことを考える力が備わってはいない。後についたものがじゃない。元から持っていたものがだ。
 それがわかっているから尚の事。次期当主になるであろう兄の隣に、俺は堂々と立っていられるのだろうか。


(ま、だからと言って、他の誰にもその場所を譲るつもりはないけどな)


 だから、悩んでいたって仕方がない。不安がっていたところで、何も始まらない。


「……っと。どうした?」

「俺も負けない」

「え?」

「葵は、大丈夫なのか」

「大丈夫じゃないと思う?」

「いいや、思わない」

「でしょ? だから、あれでいいんだよ」

「そうか。……そっか」