すべての花へそして君へ③

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 先程までの喧騒が、彼の……いや、彼女らの登場により一気に飲み込まれていった。どうやら、大衆の興味は完全にあちらへと移ってしまったようだ。


「何やら騒がしいですな」

「小耳に挟んだ話ですが、どうやらあの朝日向氏が、娘を連れて来ているとかいないとか」

「それは妙だな。跡取りなら養子を取るにしても男児だろう」

「いえそれが、“実の娘”だそうですよ?」

「……! それは寝耳に水の話。早速話を聞きに行かねば」


 また一人、今まで向けた興味をあちらへ移しこの場から去って行く。隣に立つ人物は、そんな話を聞かせて一体何を考えているのか。


「怖い顔」

「それはそうなる」

「納得できないって?」

「考えは間違ってない」

「そうだろうね。でも正しくはない」

「だったら、貴方のしたことは正しいというのか」

「はいはいそこまで。兄弟喧嘩は家に帰ってからね」


 間に入った父が静かに戒めるも、表には出さないままお互い暫くの間睨むように視線を交わしていた。父はというと、そんな俺たちを見て何故か内からの喜びを隠せず微笑んでいたけれど。
 再び会場内が煩くなった時、同時に嘆息吐きながら視線を外した。


「俺なら注意を引きつける。そうした方が、葵が捌く量も少しは減る」

「注目の的になるのはお前じゃなくて俺だろ。実の兄貴をそんな風に使うのか。いやー残虐非道に育ったものだ」

「俺が同じ立場でもそうする。わざわざ野次馬を送るのこそ根性が廃ってるんじゃないのか? 俺の兄はどうやらまだ行方が知れないらしい」

「ああ言えばこう言う……ふっ」


 小さく笑みを零した兄は、すっと目元を優しく細めた。いつの間にこんなに、頼もしくなったんだろうかと、呟きながら。
 俺らの様子を確と確認してから、父は嬉しそうに笑って挨拶回りに席を外した。


「葵が、臨んでいるからだよ」

「そう、言ったのか。葵が」

「見せ付けられているからね」

「……シン兄?」


 そうして彼の視線は、喧騒の中心へと移っていく。その表情は、優しくもあり、どこか寂しそうにも見えた。

 俺らに興味が薄れた周りが捌けていくと、その間によく知った奴らがこっそり顔を出してくる。それに兄は、優しく相好を崩した。


「やあ紀紗ちゃん。学祭以来かな」

「ええ。信人さんが派手に割り込んできた劇以来ですね」

「そんな嫌みったらしく言わなくてもいいんじゃないかな。あ、でも本当によく似合っていたよ。可愛いお姫様と王子様だったね」

「取って付けた褒め言葉ありがとうございます」