え。まさか、そんなこと聞かれるなんて思わなかった。
父は言葉に詰まった様子を見て、肩にぽんと触れた。
「何か食べるか」
「……大丈夫」
「ちょっとでも食べといた方がいいぞ」
「ううん。……今、ちょっと胸がいっぱい」
「じゃあ俺が食べたいからあおい選んでくれる?」
「え? そんなの自分で」
選べばいいのに――そう言いかけて、はたと気付いた。
どうやらこれは、“話しにくいなら場所を移そうか”という父の可愛い気遣いだったらしい。食べ物で釣るというところがまたなんというか……。
「……ふふ」
「あおい?」
「だったらわたしが選んであげるね。美味しそうなの」
「……ああ。ありがとう」
やっぱりちょっと子供っぽいのかな。
しかし、その行く途中で待ってましたと言わんばかりに何度も何度も話しかけられてしまい、なかなか先へは進めず。
ふと、そういえばタカトはどこに行ったのだろ――「きゃあー!」……うかと気にはなったが、どちらかというとわたしたちよりもあちら側の方がきりがなさそうなので、心の中で「ご愁傷様です」と手を合わせておいた。
「――ええ本当にそうですね。え? そう……ですが、彼は何と? ……そうですか。いえ、でしたらわたしの口から申し上げることは何も。疚しいことはないですよ。彼は古き良きわたしの大切な友人です」
何処のマダムも、噂話は大好物らしい。
そんな彼女たちに二人して捕まってしまい、話がなかなか切り上げられずどうしたものかと思っていると……。
「やあ朝日向さん」
「あ、皇さん。ご無沙汰しています」
「此方こそご無沙汰して……っと失礼。これはこれは倉橋様。少し朝日向様をお借りしても?」
そこに、救世主――皇紫蘭さんが現れた▼
おかげでようやくマダム地獄から解放されると、二人してこっそり息をつく。
(……待てよ?)
シランさんが現れたと言うことはだ。もっと面倒なことに巻き込まれてしまうんじゃ――
「こんばんは、葵。風邪は治ったみたいだな」
「……こんばんはアキラくん。うん、心配かけてごめんね」
「いや。元気そうでよかった」
「ありがとう。……それから」
優しく細められるグレーの瞳から、未だ驚いたように目を瞠ってている金色へと、ゆっくり流れるように視線を流した。ほらね、やっぱり来た。
「……こんばんは、葵」
「ええ。こんばんは、シント」



