――だからミズカさんは、アイを選んだ。
『そのままずっといるんなら、お前は一生勝てない』
目の前を越えたら、オレの中で、何かが変わるんじゃないかと。他力本願ではあるが、願掛けみたいなもの。
一本でも取れれば、“強くなった”という自信がオレにつくんじゃないかと、そう思ったんだ。
だから、やっぱり彼は――【稽古をつけて欲しい】そう言ったオレの、気持ちを全部わかってくれていた。
孤独。それにオレは慣れている。けれど、慣れているからって平気というわけではなかった。
ハルナがいなくなった時は、自分の半分が急にぽっかりと空いた。初めは空腹感に似たものだったけれど、ご飯を食べるのもどんどん苦しくなった。そしていつの間にか、双子の姉がいないことが日常になって、当たり前になった。でも全然、平気じゃなかった。
母さんの時だってそうだ。母さんの中にオレがいなくなって、けどこうしたのは全部自分のせいだって責め続けて……平気な振りをして。
“――ヒナタくんっ”
でも、あいつの声が、オレを止まらせてくれた。あいつにオレは、たくさん救われた。
だから、何が何でも助けようと思った。何が何でも助けてやったんだ。……それなのに。
『どちらの選択も、はっきりした期限はないわ。決まっているのは、独房か、未解決事件の解決や世界中の犯罪者・組織を見つけ出して逮捕するか。彼女に課せられたのは、果てしないことになるかもしれないわね』
天国から地獄。そんなことになってるなんて、知る由もない。
折角、助けてやったのにこの様だ。結局、本当の意味で助けてやれていないじゃないか。
これからはずっと一緒にいられるんだと思っていた。
一緒にいられる時間が本当に幸せだった。
たとえ、限りのあるものだったとしても。
『そんなとこで寝てる暇があるなら、さっさと走って帰って風呂入って部屋行け。あおいが起きてくるぞ』
『……ミズカ、さん』
『なんだ』
『ありがとう、ございます』
でも、だからって、完全に諦めたわけじゃない。掴みかけた幸せを、そう易々奪われてたまるか。きっと、あおいもそう思う。
『……ひなた』
『はい』
『お前は腕の引きが甘い。それから足が弱い。腰がまだまだ高い。そんなんじゃ、あいにも一生勝てないぞ』
『……はい!』
だからオレは、勝たなくちゃいけない。
孤独が怖い自分に。一人が寂しい自分に。他でもない、自分自身に。
誰かがそばにいないとダメな自分にならないために。



