すべての花へそして君へ③


「でしたら、やはり少し小振りのものを。内装やデザインにはこだわっていただいてかまいません」


 しかし僅かの間顎に手を当てて悩んだ父は、確と頷いてにっこりと笑ったのだ。
 そして右手で1を、左手で5を作り、笑みを携えながらすっと強気な表情に変える。


「しかし、期限は変えず一年きっかり。もしそちらが可能であれば、初めにご提案した額の五倍で如何でしょうか」


 見たこともない父のそんな表情の奥には、何かの企みが見え隠れしていた。


「……って、え!? ご、ば、い……」

「……ふむ」

「足りないようでしたら、いくらかご呈示いただければ」

「ははは! いえいえ、結構ですよ」


 相手の表情は、先程とは一変、満面の笑顔になる。
 確かに“金に糸目は付けません”なんて言われたら、それはまたとないチャンス。ホクホクニヤニヤ顔は暫く止まらないだろう。


「……あれ。ということは交渉は……」

「成立したよ」

「ええ。喜んでお引き受け致しましょう」

「あ、ありがとうございます……!」

「とんでもない。寧ろお礼を言うのは此方の方だよ」


 でも、相手の笑顔の裏側に金はちらついていない。それになんだか、すごく楽しそう……嬉しそうだ。


「改めての自己紹介は不要かな。詳細は後日、娘さんにでいいかい朝日向くん」

「はい。それでお願いします」

「あ、……葵と言います。小鳥遊様」

「ああ、もう話は終わったんだから気楽にしておくれ。どうも堅苦しいのは性に合わなくてね」

「わ、わかりました。えっと、小鳥遊……さん」

「うん。ありがとう葵さん」


 けど……お礼って、一体どういう意味だろう。
 それから少しだけ仕事の話をしたり、世間話をしたり、御子息の紹介を冗談交じりでしてもらったり……。何というか。噂通りの、裏表のないサッパリとした、本当に笑顔の素敵な人だ。なんか、自分の心が洗われたみたいに清々しい。


「しかし二人とも……というか一家で不参加というのは、正直なところ面白くないね」


 けれど、避けては通れぬ例の話題に、父共々手に汗握った。
 わざわざ掘り返したということは、相当根に持っていらっしゃる可能性が……あああ、折角いい感じに話がまとまったのにっ。


「そ、その節は折角の御招待にいいお返事ができず……」

「大変申し訳ありません……」

「ああいいんだいいんだ。つい寂しくてね。意地の悪いことを言ってすまない」

「い、いえ。とんでもないです」

「元々招待は形だけ。初めから断られるとわかっていたよ」


 今日本で一番忙しい大企業の朝日向、その社長に奥様と御令嬢。そんな彼らに来てもらえるのなら、それはそれで大歓迎。そして儲け物だ。


「けれど、それ以上のものをまさか今日得られると思っていなかったから、それがおかしくておかしくて」

「??」