「でしたら、やはり少し小振りのものを。内装やデザインにはこだわっていただいてかまいません」
しかし僅かの間顎に手を当てて悩んだ父は、確と頷いてにっこりと笑ったのだ。
そして右手で1を、左手で5を作り、笑みを携えながらすっと強気な表情に変える。
「しかし、期限は変えず一年きっかり。もしそちらが可能であれば、初めにご提案した額の五倍で如何でしょうか」
見たこともない父のそんな表情の奥には、何かの企みが見え隠れしていた。
「……って、え!? ご、ば、い……」
「……ふむ」
「足りないようでしたら、いくらかご呈示いただければ」
「ははは! いえいえ、結構ですよ」
相手の表情は、先程とは一変、満面の笑顔になる。
確かに“金に糸目は付けません”なんて言われたら、それはまたとないチャンス。ホクホクニヤニヤ顔は暫く止まらないだろう。
「……あれ。ということは交渉は……」
「成立したよ」
「ええ。喜んでお引き受け致しましょう」
「あ、ありがとうございます……!」
「とんでもない。寧ろお礼を言うのは此方の方だよ」
でも、相手の笑顔の裏側に金はちらついていない。それになんだか、すごく楽しそう……嬉しそうだ。
「改めての自己紹介は不要かな。詳細は後日、娘さんにでいいかい朝日向くん」
「はい。それでお願いします」
「あ、……葵と言います。小鳥遊様」
「ああ、もう話は終わったんだから気楽にしておくれ。どうも堅苦しいのは性に合わなくてね」
「わ、わかりました。えっと、小鳥遊……さん」
「うん。ありがとう葵さん」
けど……お礼って、一体どういう意味だろう。
それから少しだけ仕事の話をしたり、世間話をしたり、御子息の紹介を冗談交じりでしてもらったり……。何というか。噂通りの、裏表のないサッパリとした、本当に笑顔の素敵な人だ。なんか、自分の心が洗われたみたいに清々しい。
「しかし二人とも……というか一家で不参加というのは、正直なところ面白くないね」
けれど、避けては通れぬ例の話題に、父共々手に汗握った。
わざわざ掘り返したということは、相当根に持っていらっしゃる可能性が……あああ、折角いい感じに話がまとまったのにっ。
「そ、その節は折角の御招待にいいお返事ができず……」
「大変申し訳ありません……」
「ああいいんだいいんだ。つい寂しくてね。意地の悪いことを言ってすまない」
「い、いえ。とんでもないです」
「元々招待は形だけ。初めから断られるとわかっていたよ」
今日本で一番忙しい大企業の朝日向、その社長に奥様と御令嬢。そんな彼らに来てもらえるのなら、それはそれで大歓迎。そして儲け物だ。
「けれど、それ以上のものをまさか今日得られると思っていなかったから、それがおかしくておかしくて」
「??」



