そしてよく目をこらして見ると、その中心にはよく知る人物が愛想のいい顔で笑っていた。
一段と騒がしくなった原因はあなたでしたか。それでもって、彼が落ち込んでいる原因もあれらしい。
「そんなにエスコートしたかったなら、タカトさんに替わってもらえばよかったじゃないですかあ」
……返事なし。まさかとは思ったけれど、やっぱりそういうことでもなかったらしい。
ま、何か起こるだろうなと、大凡の見当は付いていた。
『……もしかしたらパーティーどころじゃなくなっちゃうかもしれない。折角の創立記念日なのに、ごめんね』
彼女からそんな風に言われてしまっては。逆に、わかるなという方が難しい。
「……心配ですかアイさん」
「心配……」
「でも彼女が決めたことです。応援してあげましょう」
「確かに心配なんだけど、そうじゃないんだ」
「……と、いうと?」
「それは……えっと」
言いにくそうにしたアイさんは、何度か口を開きかけるが、そのまま閉ざしてしまった。どうやら、話すには誰かの許可が要るみたいですね。
「コズエさんの判断は、正しかったと思いますよ」
「え。……コズエさん口軽すぎ」
「何のことを仰っているのかはわかりませんが、今ぼくが言っているのは、彼女が潜入捜査をしてわかった“道明寺”の状況を、九条さんに話したことです」
「……」
その反応だけで、今騒ぎの原因となっている彼女に、また新たな問題が降りかかっていることが容易にわかってしまったけれど……。それは、何も見なかった、聞かなかったことにしておきましょう。これ以上巻き込まれるのは御免です。
ぼくは、もう一度その騒ぎの方へ、視線を向けた。
「今からは大変かもしれません。でも、今の状況にすらならなかった方が、きっと今よりももっと大変ですう」
「……そうだね」
ゆっくりと立ち上がったアイさんは、ぼくの横で同じように彼らへと視線を向けた。
タカトさん、朝日向さん、そして……もう一人。
「少し前にね、あおいさんが将来の夢について話してくれたことがあったんだ」
「……それぼく聞いても大丈夫です?」
「大丈夫。ただ、俺はそれを聞いて、どう反応すればいいのかわからなくて」
「それを聞いただけで、彼女がとてつもない夢を抱いていることだけは想像できましたあ……」
「でもやっぱり、応援してあげたい気持ちの方が勝ったんだ。あおいさんなら絶対にできるって。背中を……押してあげたいって」
「そう思うのは当然だと思います。ですが、どうしてアイさんはそんな顔をしているんです?」
そんな……寂しそうな、悲しい顔を。彼女の夢が、彼をこんな風にさせてしまっているのか。
でも、そうではないだろうと、ぼくの中には妙な確信があった。
「……朝日向社長と、何かありましたか」
いつの間に合流したのか。アイさんの視線が彼女ではなく、その隣の彼に向けられているような気がしたから。
「覚悟したあおいさんの気持ちは、わかる気がするんだ。でも、彼は今、何を思っているのかわからない」
「……えっと」
「彼に限ったことじゃない。ミズカさんもヒイノさんもクルミさんも。俺には今、彼らがあおいさんに対して、本当のところどう思っているのか、皆目見当が付いてない」
「……彼女が話した夢のことと繋がるんですね。彼らは何と?」
「俺と同じだよ」
「……アイさんは、何を彼らに抱いているんです? 疑心暗鬼になって何か得することはありましたか?」
どうして彼が、そんな風に思っているのかはわからない。
「……どうやら俺は、新しい家族に気を遣わせてしまっているらしいから」



