アイくんは、首を傾げた。わたしの言ったことをもう一度頭の中で反芻して……顎に手を当てて悩んだ。
「……と、申しますと??」
けどやっぱりわからなかったみたいで、もう一回首を傾げた。
本当のことを教えてあげると、彼は暫くの間大人たちとわたしを、パチパチと目を瞬かせながら交互に見つめていた。純粋な目に見つめられている大の大人たちはというと、物凄く居心地が悪そうだ。今すぐここから、逃げ出せるものなら逃げ出したいと、目がそう訴えている。
ま、そうさせないのは勿論わたしだけど。だから、こんな序盤で躓いてたらダメなんだってば。
「彼らは早々、わたしの言及に耐えられずヒナタくんを裏切りましたとさ」
「み、皆さんいつの間に……」
「話を聞こうとしなかったのは、君にこんな大人だと知られたくなかったからだ」
「え」
「なので是非とも誇ってください? 追求に打ち克ったのは君以外いないのだから」
「……でも」
「だからどうか、アイくんも肩の力抜いて? 今からする話は、ここにいるみんなが知っていることが前提になるからさ」
「…………」
アイくんに一度目を向け、申し訳なさそうに笑った後、“やれやれバラされてしまってはしょうがない”と、大人たちは読んで字の如く大人しく席に着いた。
「皆さんの様子を見るだけで、その追求の様子が目に浮かびますね」
「おや、それはどういう意味かな?」
「何でもないでーす。……それで、話というのは?」
「うん。わたしの未来……夢についての話だよ」
これから話す未来に、“家族”は一体どんなことを思うのか。楽しみな反面、やっぱり少しまだ怖くて。
ドキドキと速くなる鼓動に震える手を必死に押さえて、わたしは、自分が決めたこの先歩く道を、ゆるゆると語り始めた――……。
✿
「――それでは皆々様、今宵は我々催しのパーティーを、心行く迄御堪能くださいませ」
代表の挨拶も終わり、ステージの上手側へアイさんが帰ってくる。どこか、浮かない顔だ。一体どうしたというのだろうか。
そっと会場を覗いてみると、沢山の参加者たちは各々楽しい時間を過ごしているように見える。まさか、緊張したとか、疲れたとか、そんなことでもあるまい。
「アイさん?」
「……」
「……アイさん? 一体どうしたんですう?」
壁際に置いてあるパイプ椅子に腰を下ろしたままの彼は、何度もため息を吐きながらネクタイを緩めるような動作をする。まさか、息が苦しかったわけでもあるまいし。
「飲み物でも持ってきますねえ」
心配になり、一旦席を外そうと腰を上げると同時。パーティー会場から何やら奇声が。一体何が起こったというのでしょう。
(……救護班。ああ、この声はタカトさんですか)
あまりにも多い人集りに、一度では気付くことができなかったが、入り口付近がやけに騒がしい。
どうやらタカトさんの悩殺スマイルでまた一人、ノックアウト者が出たらしい。全く、これで何人目ですか。
「……成る程。いらっしゃったようですね」



