そして、何を頭の中で考えたのか。整理したのか。
少し時間を空けた彼は、再び作った笑顔を剥がし、ゆっくり項垂れるように頭を垂れた。
「……一つ、訊かせて欲しい」
「ほい、何でしょう?」
けれど彼は、決して失望や悲しさに打ち拉がれているわけではなかった。
「何故、信じられる」
「…………」
「リスクがあまりにも大き過ぎる。誰だってわかることだ。それなのに……」
「どうしてあなただったのか?」
「…………」
「ふふっ。さて、どうしてでしょう」
✴
あの時の答えは、まだ出てない。
腐りきった世界を変えられる? 歪み、蔓延る黒から救える? 一縷の光?
【一昨日来やがれ?】
(彼女が求めているのは、そんな言葉じゃない)
たとえそれが俺の本音であっても。彼女は何度だってそれを否定するだろう。『は?』って。かなり本気気味に。
そして次同じこと言ったらマジで解雇される。自信がある。
なら答えは何だ? 彼女の求めているものは? 俺に、何と言って欲しい……?
自分の中にあるものなのに、その答えをまだ、俺は見つけることができないでいた。
「……早く、春にならないかな」
(葵ちゃん……?)
答え探しに焦り彷徨った目線は、ふと、彼女の視線の先に行き着く。
側の花壇に、積もっていく雪。そこには何故か、季節外れの小さな小さな花が咲いていた。
「……花」
「え?」
その光景が、自分の中にある何かと重なって。
気付けばもう、溢れていた。
「……君なら、咲かせられると思った。一輪でも百輪でも」
「…………」
「数え切れないほどの花が、咲かせられる。君なら。君となら」
「……ふっ、……あははっ」
体を折り曲げながら大爆笑している彼女を見て、はっと冷静になった。……俺は今、何て言った?
そのまま転げ落ちるように車から出た彼女は、運転席の横まで来て嬉しそうに笑っていた。正気に戻った俺は、すぐさま先程の発言を取り消してもらうようお願いした。
「……ごめん、今の忘れて」
「え。嫌ですけど」
ま、真顔でバッサリ切らなくても……。
「だって、今の本音でしょう? 誰のものでもない、シズルさんの」
「…………」
どうやら俺としたことが、だいぶ彼女に毒されてしまったらしい。
あんな言葉、自分が言ったと思い出すだけで、尋常じゃないほどの寒気がするというのに。
「……うん」
溢れ出た言葉に、嘘は1ミリだってなかった。
「シズルさん」
「……ん?」
「わたしもね、そう思います」
「…………」
「本当ですよ? 笑ってしまったのは、ビックリしたから。驚いちゃったからです」
――だから、“落としにいった”んですよ。それはもう本気で。



