心の動揺が伝わったのか。車が一度、左右に大きく揺れた。


「だ、大丈夫ですかシズルさん」

「うん大丈夫。ごめんね、少し雪道にタイヤ取られたみたい」

「気を付けてくださいね?」

「ありがとう」


 いつ銀世界に飲まれたというのか。気付けばフロントガラスの向こう側は、夜の黒と雪の白さで、モノクロと化していた。
 出掛ける前に重々気を付けるように言っていた彼女の、言葉の意味や表情はどうやらこれが原因だったらしい。僅かな光と目に見える情報を頼りに、長い坂道を上っていく。

 ……にしても、フラッシュバックなんて。俺としたことが。
 気を取り直して、ハンドルを強く握り直す。


「お嬢様、帰りはどの様に」

「もうキャラじゃないんでやめてください」

「でも今日はそのつもりで来たんでしょ?」

「……そうですね」


 窓の外に視線を向ける彼女は、どうやらまだ決めかねているらしい。


「……んんん~っ」


 いや、まだ少し怖いのか。

 そんな彼女の答えがどう出たのか。わからないまま、車は丘の上にあるロータリーへと停まる。
 どれだけの来客を呼び付けたのか、立体駐車場並びに用意された臨時駐車場には、ぎっしりと高級車が停められていた。ここにいる人たちと、趣味は合わなさそうだ。


「……迎えは、大丈夫、です」


 お。どうやら、腹を決めたらしい。


「葵ちゃん」

「……何ですか?」

「お休み、くれてありがとう。先に言っておくよ。明けましておめでとう」

「……ふふ。じゃあ、明けましたらおめでとうございます?」

「それはちょっと変だよ。やっぱり俺、今日通訳で一緒にいてあげようか? 寧ろ大丈夫? 付いてなくて」

「大丈夫です。今日は一人ではありませんし……それにわたし、誰かさんと一緒で“仮面”付けるのは得意なので」


 そう切り替えされては、ぐうの音も出ない。
 それにはただ、バックミラー越しに笑っておいた。


「きっと、今日の君は誰よりも注目の的だろうね。折角綺麗に着飾ったんだ。決して壁を彩る花になどならないように」

「なりませんよ。ていうかシズルさん、なんでそんな話し方に」

「ああでも、壁の花になっていた方がいいのかな? 君に至っては」

「…………」

「名案だと思わない? そうしてたら何時ぞやみたいに誰かさんが気付いて来てくれるかもしれないね」

「名案じゃないです」


 あらら、可愛い顔がむくれてしまった。折角めかし込んでるのに。
 でも、いい案だと思ったのにな。