変わってしまったと怖くなった。変わってしまったら、もう元には戻れないと思っていた。
 でも、変わったからって、それがすべて悪いことではないんだと。いい変化もあるんだと。今回の喧嘩では、それがよくわかったから。


『ひとつ、訊いてみてもいい?』

「ん? 一つと言わず、何でも訊いてくれたまえ!」

『それじゃあ遠慮なく訊くけど』

「どんとこいっ!」


 早く、目を覚まさなきゃ。
 早く、風邪を治さなきゃ。


『オレ、てっきりあおいが怒ってるものとばかり思ってたんだけど』

「ほへ?」

『だって……あれ何? グーチョキパーって』

「ああ! ははっ、あれね? あれは――……」


 早く、君に会いたいよ。



 ○゜◦。°〇゜◦。°○゜◦。°〇゜◦。°



 最後に聞こえたのは、ザバーンという水とぶつかり合った音だ。
 ジリジリと焼けた肌に、冷たい水の中はとても心地がよかった。

 知識ではちゃんと、海の水が飲めないことを知っていたのに。もっと、いろいろ策はなかったのかな、あのときの馬鹿なわたし。

 最後の夢の中は、冷たい冷たい海の底。


『かわいそうな子。あなたは、愛を知らないの』


 魔女と会った、はじまりの場所。


「……やっとあなたと、こうして話ができた」

『……! あなた……』

「今こうしてあなたとお話しているわたしは、あなたが悪い人じゃないってこと、よく知ってるの。話すととっても長いんだけど」

『……残念だけれど、たとえそうだとしてもあなたに今から言うことは、とても残酷なことよ』

「うん。そうかもしれないね。でもわたし馬鹿だからさ? よくわかんないんだよね」

『……あなた、名前は』

「わたしの体を乗っ取ったら、嫌でもわかるから教えてあげない」

『……そう、残念ね』


 夢の中だから、窒息してしまうことはないだろうけれど。それでも、あまり長居はしない方がいいと、何故か思った。
 海底の水の色が、誰かの心を映したかのように、どんどんと黒に染まっていく。


「わたしの体を使うことで、これからあなたにもたくさんつらい思いをさせてしまうの」

『それはないわ。はっきり言っておいてあげる。だってわたしは』

「あなたがもうすでに死んでいる人間でも。わたしを守ってくれた。だから、あなたが一番優しい人だって、わたしは知ってるんだ」

『……優しかったら、あなたの体なんて乗っ取ろうとは思わない』

「あなたがなんて言ったって! わたしが知ってるからいいの!」

『――!?』