そしてこれも風邪のせいなのか。普段なら、困るようなことは言わないようにしているのに。こんな子ども染みた我が儘が、躊躇いもなくたくさん出てくるくらいには、心細いと感じているらしい。

 はてさて、どれくらいの格闘が、彼の中にあっただろうか。


『……~~っ、ああもうっ!!』


 叫んだ夢ヒナタくんは、立ったときと同じくらい勢いよく、思い切りベッドに突っ伏した。


『いいよ。わかったよ。言えばいいじゃん。言わなきゃ済まないんでしょどうせ。 オレがなんて言ってたって? 馬鹿だなこいつとか、うわキモとか思ったんでしょどうせ。あー馬鹿ですよキモいですよ、すみませんでしたねー』


 だいぶやさぐれちゃった。

 そんな彼に少し申し訳なさを感じながら、ベッドの端に腰掛けて完全に拗ねてしまった彼の髪を、何度も何度も梳いてあげた。
 隙間から見えた耳はとても赤くて、それがあまりにも可愛くて。少し触れてみたけれど、彼はそれもわかっていたように無反応。暫くはずっと、わたしが声をかけてもこっちを見ようとしてくれなかった。


「ひーなたくん」

『いろいろ覚悟はしてたよ』

「え。覚悟?」

『あんたと一緒にいる以上、オレにもとばっちりが来るんだろうなって』

「そんなことないのに」

『とんだ辱めも受けるんだって』

「そんなバナナ」

『どんな嘘だって隠し事だって、あんたにはいつかバレるんだろうって』


 それから、どれくらい彼に話しかけていただろうか。髪に触れていたわたしの手を取った彼は、ゆっくりと起き上がって漸くこちらを向いてくれた。
 やっぱり、わたしと一緒が嫌なのかと思った。それか、悪かったと、わたしの話も聞かずただ謝られるかと思った。彼の瞳は、わたしの未来を知ってから、いつも不安げに揺れていたから。

 だから、きっと夢でもそうなのだと、決めつけていた。


『今のオレにはできなくても、いろんなこと、少しずつでもこれからはできるようになる。オレはそのつもりでいる』

「ヒナタくん……」

『素直になれないのはオレの悪い癖で、そんなところをあんたはいいって言ってくれたけど。でも、だからってあんたに甘えていいわけじゃない。全部をわかってくれるって、丸投げしていいわけじゃない』

「…………」


 どこまでわたしは、都合のいい夢を見ているんだろう。
 風邪を引いているからって、ミズカさんにいろいろ教えてもらえたからって、あまりにもこれは自分勝手すぎる。