エンドロールは救いの詩を

「こーんにちわ」
緩い雰囲気で入ってきたのはアキだった。
「アキ...」
「前に聞いた赤マフィアに手強い奴が入ってきたっていう情報。それは貴方のコトだったんだね、総理大臣さん」
「フッ、何のコトかな?」
アキは中央に居る俺の隣に並ぶ。
そして総理大臣と向き合う。
「最初は赤マフィアと手を組む形だったが、貴方はすぐに赤マフィアを支配するようになった。元々のボスよりも色んなコトに手を回したり人心掌握が上手かったようだね」
アキの言葉に総理大臣はより笑みを浮かべ、後ろに居る赤マフィアの奴らは苦い顔をしている。
「貴方は情報操作にも長けている。マフィアだった人が警官になっている証拠は全て消し去っているようだね。僕でも証拠は揃えられなかったよ」
アキは調べれば確実に証拠を集められる情報収集力がある。
そんなアキでも証拠を揃えられなかったとなると相当のものなのだろう。
「総理大臣はマフィアと繋がってるって言っても意味ねぇってコトか?」
「うん。証拠がなければ、ただの戯言にされてしまう。この人に関するコトは特にね」
俺は拳銃を強く握る。
この総理大臣の行動を止めるには実力行使しかないのかと思った。
しかしアキはそのまま話し続ける。
「ところで総理大臣さん、名前はテツさんでしたね?」
「...あぁ、そうだが...」
「総理大臣になるなんてスゴイなぁ。一体どんな経歴なのか気になって、調べちゃいました」
アキがそう言った瞬間、総理大臣の顔から笑みが消えた。
「貴方の家系、元々は医療に関わっていたんですね。ご先祖様は皆お医者さんだった」
「えっ...」
反応したのは俺の後ろに居るナナだった。
自分達の前の時代の医療を担っていた医者という言葉に反応したのだろう。
総理大臣は何も答えない。
「貴方が生まれた頃にはキュースレーによる医療は始まっていた。それでも貴方の父親は医者としてのプライドがあり、まだ医者による医療の時代が続くと信じて、貴方にも医者になる為に必要な教育を与えた」
総理大臣の顔に怒りが浮かび始めた。
アキが言っているコトは事実なのだろう。
「それでも貴方が大人になる頃には医者という存在はなく、全ての医療がキュースレーになりかわった。元々医者だった人はそのまま病院の事務などに勤める人もいたが、貴方はそうしなかった。プライドが許さなかったんでしょうね」
アキがそう言った瞬間、総理大臣は隣にいた警官から拳銃を奪った。そしてアキに拳銃を向ける。
俺も総理大臣の方に拳銃を向けながら、アキの背中に触れる。
「そのまま話し続けろ」という意志を込めて、触れた。
それはアキにも伝わったようだ。
アキは表情を変えずに話し続ける。
「貴方がどれだけ医者の時代になるコトを願おうと、世界は変わらなかった。キュースレーの時代が続いていた中で、一つの出来事が起こった。貴方の息子に関する出来事だ」
「それ以上言うな!」
総理大臣の声が大きく響く。
怒りに満ちたその声は震えていた。
それでもアキは言葉を止めない。
「貴方の息子は17歳の時に事故で亡くなっている。山での遭難事故だ」
「その遭難事故でキュースレーが助けられなかったのを恨んでこんなコトを...?」
俺の言葉にアキは首を振る。総理大臣は下を向いて唇を噛んでいた。
「少し違う。総理大臣は...テツさんはどうしてもキュースレーに助けられるコトが嫌だった。小さな怪我は自然に治し、キュースレーを呼ぶコトはしない。幸い大きな怪我もしなかったから、キュースレーに頼るコトなく生きてこられた。そして、貴方はそれを息子さんにも強要した」
ナナが俺の服を掴む力が強くなる。
キュースレーに頼らず生きる人達の生活を想像しているのだろう。
「キュースレーに頼らず生きるなんて、今の時代に出来るのか?」
「どうだろうね。スゴく健康的に生きれば、そんなコトも出来るんじゃないかな。ねぇ、テツさん」
総理大臣は肯定も否定もしなかった。
言葉が返ってこないと分かったアキは話を続ける。
「貴方の息子さんも生まれてから一度も救難信号を出した記録がない。亡くなった遭難事故の時もだ」
「たまたま救難信号を出すスイッチを持ってなかったんじゃ...」
「いや、息子さんが発見された時スイッチは身体の近くにあったそうだよ。そのスイッチを押す力が残っていなかったのか、キュースレーに頼るなと強要されて生きてきた結果スイッチを押さなかったのかは僕も分からないけどね」
その時総理大臣の頬に涙が伝ったのが見えた。
「貴方は息子さんを喪った。そしてその原因は助けられなかったキュースレーにあると思い込んだ」
「...当たり前だろ...。父親の代まで続いてきた医者という立場を奪っておきながら、事故にあった息子を助けられなかったキュースレーを許せるわけがないだろ...」
俺の後ろに居たナナが俺の隣に並ぶ。
そして総理大臣を真っ直ぐ見る。
「...もし息子さんが救難信号を出せていたらとか、そんな想像の話はしないです。今あるのは貴方の息子さんは救助されなかったという事実のみ。息子さんの命を救うコトが出来ず、申し訳ございませんでした」
俺は総理大臣の逆恨みだろうという思いもあった。
しかしナナは総理大臣の言葉を真っ直ぐに受け止め、謝罪した。
それはナナの助けが必要な人は救うという思いから出たものだろうと思った。
総理大臣は頭を下げたナナを見て、更に声を荒げる。
「今更謝罪された所で息子は帰ってこない!そんな言葉...今更...」
総理大臣は拳銃を下ろし、涙を隠すように片手で顔を覆う。