すべての花へそして君へ②


 にこっと笑うと、彼は一瞬目を見開いて、そっぽを向いてしまった。


「あ。照れてる」

「わ……、わかってるんなら、いちいち言わないでください」

「ふふっ。なんかレンくん可愛いね」

「か、可愛いと、男は言われても嬉しくありません!」

「はは。知ってるっ」

「……んん~っ!」


 拗ねてしまったレンくんは、パクパクとジェラートに逃亡。こんな彼を見られるのも貴重なのに。ちょっと残念。
 そんな彼を横目に、わたしも溶けそうになっていたところを掬って、ひとくち。


「……レンくんは、今どんな感じ?」

「……? オレ、ですか?」


 様子を見る限り、大丈夫そうだとは思っていたけれど……あのあとのことが、気になっていた。


「桜へはまあ、理事長とかがいろいろ説明をしてくださっていたので、すんなり戻ってこられました」

「……そっか」

「家は、結局潰れました。でも、あんなことがあってせいか、初心を思い出したというか」

「え?」

「父も母も従業員も、心は折れてなんかいなかったんです。一から立て直します。月雪を」

「……レンくん」


 道明寺のことがなかったにしても、もう時間の問題だったんだと。月雪の皆さんは改めて思い直したらしい。だったら、もう一度一から。やり直せばいいだけの話だと。


「そう言って、皆さんの背中を押したのはレンくんでしょう?」

「……!? え。な、なんで……」


 危うく落としそうになってしまったジェラートを、彼は慌ててキャッチ。その時に指にジェラートが付いてしまったらしく、可愛くその指を舐めている。“なんでわかってしまったんだろうか”と。不思議そうな、でもどこか不安そうな。そんな表情を浮かべながら。
 でも、さすがにわたし、人の心が読めるわけじゃないからね。……読みたいと、思うときはあるけど。特にぶきっちょさんに。


「誰かから聞いたわけじゃないよ? でも、きっとそうしたんだろうなって思ったの」

「……オレは」

「なに? 後悔してる?」

「してません! けれど、これで本当によかったのか、不安で」

「……それがわかるのは、未来しかないよね」

「え?」