彼はやわらかい笑顔を浮かべる。
「だから別に、俺今追い出されてっけど――「え?! そうなんですか!?」……トーマ、何楽しそうな顔してんだよ」
「え。だって面白そうだから」
「やめてくれ。今真面目な話してんだよ」
「へーい」
トーマさんが落ち着いたところで。
「だからまあ、離れてても別に怖くねえよ。体壊してないかとか。心配になったら連絡はする。そんなもんだろ」
「……そんなもん……」
「はじめは金。きっかけはそれでも、今こうして自分が、そしてあいつが、娘が幸せでいられることが、俺の一番目指すところだ。それは、きっと死ぬまで変わらねえし、まだまだ達してない」
40のおっさんになっても、ずっとこれからなんてこと考えるに決まる。……だから、ざっくりでいいんだ。
俺は、女房と一緒になって、あいつに苦労掛けないように。あいつがユズが幸せになれるように。そう思って仕事してるだけだよ。
「まあ、俺はってだけだ。他の意見もあるだろうけどな」
「葵ちゃんどう? 楓さんの話は参考になった?」
そうカメラを構えてくるトーマさんに、わたしは苦笑い。
「正直言って、今こうしていられることが幸せなわたしには、こうしたい、ああしたいって欲があまりありません」
気まずいとか、しまったとか。そんな空気にならないのは、きっと彼らが年上で、大人だったからだろう。
――したいことを見つければいい。
そう言われても、わたしにはそれがよくわからない。もちろん、惚気と思われてもしょうがないけど、わたしの隣にはいつも彼がいてくれたらなとは思う。いつも笑ってくれていれば。幸せであれば。……それがいいと。
「だから、カエデさんやトーマさんみたいに、まずはお金からっていう考えも、わたしは正しいんだろうなとは思います。もしかしたら、それを選ぶようになるかも知れないし」
「……でも」と。 綺麗に瞬く夜空の星を、わたしは見上げる。
「もっともっとって。思います、わたしは。それがもしかしたら、一番の欲かも知れませんけれど、たくさんの人に幸せになって欲しいし、でも一番は彼であって欲しいし」
自分のしたいことが、それに繋がってくるのかはわからない。けれど、絶対に。これからの未来、彼と共にということだけは、外せない。外したくなんかない。
こんな幸せをくれた多くの人に。みんなに。そして……彼に。それ以上の幸せを。多くの幸せを。これ以上ないほどの幸せを。
「……ざっくりの程度が大きすぎて笑っちゃうんですけどね。それでも、きっとこれは、わたしのずっと変わらないことだと思うから」
わたしの、大きな野望だから。
真っ暗な空に光る星を、ただ真っ直ぐに見上げる。きっと見ててくれている。この空の上で、きっと。
見ていて欲しい。見守っていて欲しい。わたしが、それを成し遂げるところを。どうか。……どうか。



