どうしても手放せないことがあったらしく、偽の結婚式に彼女は来られなかった。だから、いつか会ってきちんとお話ししたいと思ってはいたんだけど……。
「言っておくけど、あいつももう全部知ってるからな」
「はい。なので、ユズちゃんのお友達なんですって。ご挨拶に行かせてください」
「ああ。……その方があいつも喜ぶよ」
取り敢えずは、カエデさんが反省してるようだから、お家に上げてあげてくださいって。お世話になったからね。説得のお手伝いでも致しましょうっ。
あと、もしよければなんですが。人生の先輩として、ちょっと参考にさせていただきたくて。
「ん? なんだ?」
「カエデさんって、どうして今の道を歩もうとしたんですか?」
「金が稼げるから」
「え」
どこかで聞き覚えのあるセリフに、そちらの方を向いたら、パシャリとまた撮られた。
「やっぱそうですよねー楓さん」
「あ? トーマもか」
実は以前に、トーマさんとも電話口でそんな話をしていた。
『トーマさんは、どうして弁護士に?』
『似合ってるでしょ?』
『ハイ。トッテモ』
『まあ情報収集って嫌いじゃないし、屈伏させるの好きだし、お金稼げるし』
『え? 本当にそんな理由で? ていうか屈伏させないでくださいよ。弁護してくださいよ』
『え? ダメ?』
ダメに決まってるでしょ。
……彼も、シントと一緒で、飽きずに毎日のように電話掛けてくるからね。思い出しただけで突っ込み入れたくなるわ。
「やっぱ世の中お金ですよ」
「そうだよなー」
聞きたくない。こんな会話。夢をぶち壊してしまう。
「とは言うんだけどな、俺の場合は、もう一生死ぬまでいてえ奴がいたから」
「……奥様、ですか?」
「そうだな。だからまずは、どうやったらこいつが幸せになれっかなって考えたんだ」
「それがお金と」
「まずは、金に苦しむようなことがないようにしたかった。だから、少々家を空けててもいいだろうと思ってな」
「でも、いてくれた方が奥様も嬉しいんじゃ……」
「ん? いるぞ?」
「え?」
たとえ離れてても、そこが俺の帰る場所だし、女房の帰る場所だ。
それが離れている時間こそ長くても、それはただの時間だけ。それ以上のもんがあるだろ?



