すべての花へそして君へ②


 どうしても手放せないことがあったらしく、偽の結婚式に彼女は来られなかった。だから、いつか会ってきちんとお話ししたいと思ってはいたんだけど……。


「言っておくけど、あいつももう全部知ってるからな」

「はい。なので、ユズちゃんのお友達なんですって。ご挨拶に行かせてください」

「ああ。……その方があいつも喜ぶよ」


 取り敢えずは、カエデさんが反省してるようだから、お家に上げてあげてくださいって。お世話になったからね。説得のお手伝いでも致しましょうっ。
 あと、もしよければなんですが。人生の先輩として、ちょっと参考にさせていただきたくて。


「ん? なんだ?」

「カエデさんって、どうして今の道を歩もうとしたんですか?」

「金が稼げるから」

「え」


 どこかで聞き覚えのあるセリフに、そちらの方を向いたら、パシャリとまた撮られた。


「やっぱそうですよねー楓さん」

「あ? トーマもか」


 実は以前に、トーマさんとも電話口でそんな話をしていた。


『トーマさんは、どうして弁護士に?』

『似合ってるでしょ?』

『ハイ。トッテモ』

『まあ情報収集って嫌いじゃないし、屈伏させるの好きだし、お金稼げるし』

『え? 本当にそんな理由で? ていうか屈伏させないでくださいよ。弁護してくださいよ』

『え? ダメ?』


 ダメに決まってるでしょ。
 ……彼も、シントと一緒で、飽きずに毎日のように電話掛けてくるからね。思い出しただけで突っ込み入れたくなるわ。


「やっぱ世の中お金ですよ」

「そうだよなー」


 聞きたくない。こんな会話。夢をぶち壊してしまう。


「とは言うんだけどな、俺の場合は、もう一生死ぬまでいてえ奴がいたから」

「……奥様、ですか?」

「そうだな。だからまずは、どうやったらこいつが幸せになれっかなって考えたんだ」

「それがお金と」

「まずは、金に苦しむようなことがないようにしたかった。だから、少々家を空けててもいいだろうと思ってな」

「でも、いてくれた方が奥様も嬉しいんじゃ……」

「ん? いるぞ?」

「え?」


 たとえ離れてても、そこが俺の帰る場所だし、女房の帰る場所だ。
 それが離れている時間こそ長くても、それはただの時間だけ。それ以上のもんがあるだろ?