だいぶ離れているというのに、心からの楽しさが、風に乗ってここまで聞こえてくる。
「ただまあ、ユズが姐さんになる覚悟があるのかどうかだが……ま。答えはわかりきってるか」
「それはわかりませんよ?」
「え」
「それは、ユズちゃんだけが知ることです。カナデくんも、もちろん知らないと思います。……彼女も彼女で、いろいろこれからについて悩んでるんじゃないかなって思いますよ」
あの時、何もできなくて悔やんでいるのであれば。これから彼女のために、何かしてあげればいいんだ。これからはきっと、彼女を見守って、そして支えていける。だって、……お父さんなんだから。
「アオイちゃんも、ユズとずっと友達でいてやってくれな」
「……!! もちろんですよっ!」
とっても大切な、わたしの友達だから。彼女の幸せが、わたしの幸せだから。これから彼女が、ずっとずっと笑顔でいられるように。わたしも、ずっと彼女のこと、見守っていてあげるんだ。
「ところでカエデさん。また煙草吸いましたね? しかも今は、一応シントの護衛なのに~」
「え」
「聞きましたよ~? なんでも、カエデさんが家に帰れないのは、その“煙草”が原因らしいじゃないですか」
「え?!」
「奥様が禁煙しろって言っても聞かないから、家追い出されたんでしょ? ユズちゃんは仕事で帰ってこないって、そんな風に庇って言ってましたけどー」
「ど、どこ情報だ……」
「もちろんヒナタくん! まあ、本を正せば理事長ですね!」
「……だ、黙っておいてもらえたりは……」
「それじゃあ、今度奥様に会わせてもらえますか?」
「え?」
「だってー。どんな方なのか知りたいじゃないですかー」
「い、いや待て。アオイちゃんが期待してるようなことはもうないぞ? 今までの登場人物の姉とか妹とか、それこそ親戚とか! もう『世間狭い!』っていうのは俺には関わってこないから!」
「あれ? そうなんですか? それはちょっと残念」
「それを期待してたのか……」
「ふふっ。まあ、それは冗談で。……きちんと、奥様ともお話をしておきたいんです」
「……アオイちゃん。気にしてるんならそれは大丈夫だぞ」
気にしてない……と言えば嘘になる。でも、わたしの口からお話をしたいと思うから。
「……じゃあ今度、煙草のこと謝りに行くついでに遊びに来い」
「ははっ。わーい! ありがとうございますっ」



