すべての花へそして君へ②


 声が掛けられたその時、買ってもらったアイスキャンデーがタイミングよく、夏の暑さに溶けて落ちていった。


「わわ……! ご、ごめんなさいカエデさん!」

「いや気にすんな。あともうちょっと残ってたのに、何考えてたんだ?」

「……待つのって、やっぱりしんどいよなー……と思って」

「……そうだな」


 いつか、帰ってくるって。そう信じていても。その『いつか』がわからないと、ただただ苦しさは募るばかりだ。
 ……でも。


「でもねカエデさん。待ってくれている人のために頑張ろうって。そう思えると思うんです」


 ふわり。やさしい風が、わたしたちを包み込むように髪を服を、そっと揺らす。


「だから、待ちましょう。希望を持って。待って待って、待ち続けてあげましょう?」


 誰かがそう思ってくれる限り、希望は届く。思われている人たちは、簡単に諦めるようなことはしない。


「だから、会えたときは思いっきり怒りましょう! 『何やってんだー!』って。それで、出てこられたその時は『おかえり』って、言ってあげましょう?」

「……ああ。そうだな」


 笑ったわたしたちの笑顔が、希望が。このまま風に乗って、彼らに届けばいいなと。そう願わずにはいられなかった。


「ははっ。アオイちゃんの方がよっぽどかっこいいわ、確かに」

「え? な、何事ですか……?」

「いやな、ユズが『あおいちゃんならあたしイケる!』とか言ってたから」

「へ?」

「そりゃ確かになと思っただけだ。アオイちゃんは、男だけじゃなくて女にもモテモテだな」

「え? ええーっと。 まあ、嫌われてはいない……とは思うんですけど」

「だろうな! ははっ!」

「??」


 大口を開けて笑うカエデさんに首を傾げていると、笑うごとに彼の笑顔はやさしいものに変わっていった。
 そして、すっと開いた瞳にはもう、寂しい色はない。


「今ぞっこんの奴がヘタレだからな」

「……ああ。なるほど」


 代わりに混ざっていくのは、ただただやさしい色。そんな瞳が見つめる視線の先は……あ。ユズちゃん相変わらず引っ張り回してるなー。


「……あの、つかぬ事を伺うんですけど」

「そう言うアオイちゃんの言いたいことは、よくわかってる」

「ありゃま。バレバレですか」

「まあな。……まあ、あいつの話してたからだけど」


 カエデさんは、一度こちらに断りを入れて煙草を吸い始めた。ふうー……と吐き出した白い煙は、夜の空気にすぐにのまれていく。


「……あの時も言っただろ? あいつにキレるのは間違ってるし、それはもうやめたんだ。だから……まあ、俺的には“責任”を取ってくれるとありがたいなと思ってはいる」


 ……ぅお!? ま、まさかそうくるとは……。


「まあそうは言ってもだ。ユズの気持ちを尊重したいのが親としてはあるんだ。……つらい思いをしてたときに、俺はそばにいてやれなかったから」

「……カエデさん」

「大丈夫だ。別にもう責めてるわけじゃねえよ。まあ、思い出したらやっぱり後悔はあるけどな」

「……けど、今ユズちゃんとっても楽しそうです」