声が掛けられたその時、買ってもらったアイスキャンデーがタイミングよく、夏の暑さに溶けて落ちていった。
「わわ……! ご、ごめんなさいカエデさん!」
「いや気にすんな。あともうちょっと残ってたのに、何考えてたんだ?」
「……待つのって、やっぱりしんどいよなー……と思って」
「……そうだな」
いつか、帰ってくるって。そう信じていても。その『いつか』がわからないと、ただただ苦しさは募るばかりだ。
……でも。
「でもねカエデさん。待ってくれている人のために頑張ろうって。そう思えると思うんです」
ふわり。やさしい風が、わたしたちを包み込むように髪を服を、そっと揺らす。
「だから、待ちましょう。希望を持って。待って待って、待ち続けてあげましょう?」
誰かがそう思ってくれる限り、希望は届く。思われている人たちは、簡単に諦めるようなことはしない。
「だから、会えたときは思いっきり怒りましょう! 『何やってんだー!』って。それで、出てこられたその時は『おかえり』って、言ってあげましょう?」
「……ああ。そうだな」
笑ったわたしたちの笑顔が、希望が。このまま風に乗って、彼らに届けばいいなと。そう願わずにはいられなかった。
「ははっ。アオイちゃんの方がよっぽどかっこいいわ、確かに」
「え? な、何事ですか……?」
「いやな、ユズが『あおいちゃんならあたしイケる!』とか言ってたから」
「へ?」
「そりゃ確かになと思っただけだ。アオイちゃんは、男だけじゃなくて女にもモテモテだな」
「え? ええーっと。 まあ、嫌われてはいない……とは思うんですけど」
「だろうな! ははっ!」
「??」
大口を開けて笑うカエデさんに首を傾げていると、笑うごとに彼の笑顔はやさしいものに変わっていった。
そして、すっと開いた瞳にはもう、寂しい色はない。
「今ぞっこんの奴がヘタレだからな」
「……ああ。なるほど」
代わりに混ざっていくのは、ただただやさしい色。そんな瞳が見つめる視線の先は……あ。ユズちゃん相変わらず引っ張り回してるなー。
「……あの、つかぬ事を伺うんですけど」
「そう言うアオイちゃんの言いたいことは、よくわかってる」
「ありゃま。バレバレですか」
「まあな。……まあ、あいつの話してたからだけど」
カエデさんは、一度こちらに断りを入れて煙草を吸い始めた。ふうー……と吐き出した白い煙は、夜の空気にすぐにのまれていく。
「……あの時も言っただろ? あいつにキレるのは間違ってるし、それはもうやめたんだ。だから……まあ、俺的には“責任”を取ってくれるとありがたいなと思ってはいる」
……ぅお!? ま、まさかそうくるとは……。
「まあそうは言ってもだ。ユズの気持ちを尊重したいのが親としてはあるんだ。……つらい思いをしてたときに、俺はそばにいてやれなかったから」
「……カエデさん」
「大丈夫だ。別にもう責めてるわけじゃねえよ。まあ、思い出したらやっぱり後悔はあるけどな」
「……けど、今ユズちゃんとっても楽しそうです」



