「でも、そしたらシントも少しは楽になるでしょう? わたしだって縁談の話をもらうだけで、それは社交辞令として受け取っておくだけだし、多分放置するだろうし」
「それはそれで俺がかわいそう」
「それじゃあハッキリお断りした方がいい?」
「それもそれで俺がかわいそう……」
「ははっ。まあハッキリお断りとかは多分できないだろうね。 朝日向はトップの企業ではあるけれど、皇に対してそんなお粗末な対応をしてしまっては、まわりからなんて叩かれるかわからないし」
「……っ、だから、俺は」
「大丈夫大丈夫! そこら辺は、縁談をもらったら家族総出で腕組んで悩むよ! シントの気持ちはわかったから、何かあれば後はこちらに任せておいて?」
でも、申し訳ないけど。もし皇が変なことを朝日向にしようものなら、思う存分力の差を見せてあげるから。
「――その時は思いっきり、叩かせてもらうよ」
自信たっぷりにそう言ってあげよう。悩んでるのが、バカらしくなってしまうくらい。
そうしたら彼は、ふっと噴き出して。「じゃあ、お任せするよ。“朝日向葵”さん?」と笑ってくれた。……うん。やっぱり君は、笑っている方がいい。
それから話を変えて。
……シントさん、あなた大学行くって本当なの?
「ええ!?」
聞いたらものすごい驚かれた。
……え。何? トップシークレット並みの情報だったの? 弟はふっつうに話してたけど。
「アキ……」
「別にバレてもいいんじゃないのか?」
「俺が言いたかったのっ!」
「「子どもか」」
まあ、理由はアキラくんが教えてくれた通りだ。
中学中退がなかなかパンチがあるみたいで。頭は良いから、高卒認定は多分、大丈夫だろうけど。
「桜の経済学部に、俺らは入れられる。まあ俺も、理由に関しては納得してるし、アキも一緒だからちょっと楽しみだけどね」
ただ、彼には知らせていないことがあるらしくて。
「……え。ええ?! シントが次期当主でしょう……?」
「まあそうなんだけど……」
世間からしてみたら、家出した挙げ句行方不明で死んだと思われていた人物だ。皇を空けていたブランクもだけれど、そういうことが原因で、皇自体は彼を当主にすることをあまりよく思っていないらしい。そんな彼を当主に据えるなど、リスクが高いと。
「条件は、常にトップを取り続けること」
学部学年関係なく大学全体。それくらいの成績叩き出せ……と。
「それこそ、法学部には杜真くんいるのに勘弁してよって感じ」
しかも皇に帰ったら帰ったで、会社の仕事させられるのにさ? ほんと、何考えてんだろうね奴らは。
はあとため息をこぼしながら、彼は肩を竦める。
「シランさんはなんて?」
「父さんは賛成してるよ。それがいいだろうって」
「そっかそっか。いい機会もらったね。さすが皇。シントのことわかってないねー」
「ははっ。さすがは元ご主人?」
つまり、シントがどれだけの逸材なのかということを、もう一度皇に知らしめるいい機会なのだ。



