すべての花へそして君へ②


「でも、そしたらシントも少しは楽になるでしょう? わたしだって縁談の話をもらうだけで、それは社交辞令として受け取っておくだけだし、多分放置するだろうし」

「それはそれで俺がかわいそう」

「それじゃあハッキリお断りした方がいい?」

「それもそれで俺がかわいそう……」

「ははっ。まあハッキリお断りとかは多分できないだろうね。 朝日向はトップの企業ではあるけれど、皇に対してそんなお粗末な対応をしてしまっては、まわりからなんて叩かれるかわからないし」

「……っ、だから、俺は」

「大丈夫大丈夫! そこら辺は、縁談をもらったら家族総出で腕組んで悩むよ! シントの気持ちはわかったから、何かあれば後はこちらに任せておいて?」


 でも、申し訳ないけど。もし皇が変なことを朝日向にしようものなら、思う存分力の差を見せてあげるから。


「――その時は思いっきり、叩かせてもらうよ」


 自信たっぷりにそう言ってあげよう。悩んでるのが、バカらしくなってしまうくらい。
 そうしたら彼は、ふっと噴き出して。「じゃあ、お任せするよ。“朝日向葵”さん?」と笑ってくれた。……うん。やっぱり君は、笑っている方がいい。

 それから話を変えて。
 ……シントさん、あなた大学行くって本当なの?


「ええ!?」


 聞いたらものすごい驚かれた。
 ……え。何? トップシークレット並みの情報だったの? 弟はふっつうに話してたけど。


「アキ……」

「別にバレてもいいんじゃないのか?」

「俺が言いたかったのっ!」

「「子どもか」」


 まあ、理由はアキラくんが教えてくれた通りだ。
 中学中退がなかなかパンチがあるみたいで。頭は良いから、高卒認定は多分、大丈夫だろうけど。


「桜の経済学部に、俺らは入れられる。まあ俺も、理由に関しては納得してるし、アキも一緒だからちょっと楽しみだけどね」


 ただ、彼には知らせていないことがあるらしくて。


「……え。ええ?! シントが次期当主でしょう……?」

「まあそうなんだけど……」


 世間からしてみたら、家出した挙げ句行方不明で死んだと思われていた人物だ。皇を空けていたブランクもだけれど、そういうことが原因で、皇自体は彼を当主にすることをあまりよく思っていないらしい。そんな彼を当主に据えるなど、リスクが高いと。


「条件は、常にトップを取り続けること」


 学部学年関係なく大学全体。それくらいの成績叩き出せ……と。


「それこそ、法学部には杜真くんいるのに勘弁してよって感じ」


 しかも皇に帰ったら帰ったで、会社の仕事させられるのにさ? ほんと、何考えてんだろうね奴らは。
 はあとため息をこぼしながら、彼は肩を竦める。


「シランさんはなんて?」

「父さんは賛成してるよ。それがいいだろうって」

「そっかそっか。いい機会もらったね。さすが皇。シントのことわかってないねー」

「ははっ。さすがは元ご主人?」


 つまり、シントがどれだけの逸材なのかということを、もう一度皇に知らしめるいい機会なのだ。