「葵ちゃん? どうかした?」

「あ……。……とーまざん」

「え。……まだ来たばっかりなのにゲッソリしてるけど……」

「そりゃゲッソリにもなります……」

「な、何があったの……」

「それは……まあ、いろいろ女子にはあるんですっ」

「そ、そう。女の子はいろいろ大変だね……」


 最近、こう言っていっておけばいろんなことから逃げられるから、便利だなとは思うんだけど。……言われた人たちは、一体女子の『何』に大変だと思っているのか。


 ――カシャッ。


「え? トーマさん?」


 うーんと思案していたところをパシャリ。いきなりでビックリしましたよ。


「ああこれ? 弟子からの依頼でね」

「そ、そうですか……」

「うん。……だから、笑って?」


 彼は、レンズ越しにやさしく笑う。


「ゲッソリの原因は多分あいつなんだろうけど、笑ってないともっと大変なことになるかもよ?」

「……おっしゃる通りで」


 それが本当にその通り過ぎて。おかしくて、クスッと笑ったところをまたパシャリ。せっかくだもん。しっかり楽しまないと。


「……それにしても、珍しいですね。トーマさんが何の利益も無しに撮るなんて」

「え? あるじゃん。だってこれ、俺のカメラ」


 この大きな一眼レフは、どうやらトーマさんのもののようだ。……と、撮った写真たちは一体このあとどうなるのだろうか。
 でも、考えてることがバレたのか。そんなわたしの顔を見て、トーマさんはただ、おかしそうに笑った。そのあとは、トーマさんがお昼に撮ったという、みんなの観光風景の写真を見せてくれた。

 みんなそれぞれ楽しそうに写ってた。夕食を食べてる時に聞いたのだけど、ユズちゃんが男共を従えて買い物をしたという証拠写真も、そこに本当にあって……。


『あおいちゃん、これが“逆ハー”というものなのだ』

『おおぉ……』

『あっちゃん、真に受けないで……』


 ちょっとビックリしたけど。でも、彼女も本当に楽しそうでよかった。


「――それでトーマさん。結局『何』で買収されたんですか?」

「あおいちゃんの制服&エプロン姿の写真!」

「……はあ」


 まず、そんなものをいつ撮られたのかもわからなかったけれど。そんなものに、なぜそこまで魅力をそそられるのかは……到底理解不能だ。


「楽しそうに笑ってくれると、あいつもきっと喜ぶと思うよ?」

「……きっと、すぐ笑っちゃいますよ」


 だって、すでにこんなにも楽しいんだもん。問題はそのあとだけど。……い、今は何も考えないでおくっ。