なんとなく聞こえていただけで、話の内容は俺の頭には入っていなくて。レンに肩を叩かれてようやく、呼ばれていたんだと気付く。


「……どうかされたんですか? アイさん」

「い、いや……」


 その時。ちょうど前から「アキラく~ん!」と彼女の声が。


「ん? どうしたー?」


 その声に、彼も少し声を張って応えている。


「わたし! まだいろいろ考え中! 悩み中なの!」

「え?」

「だから! 参考にさせてもらうね! 教えてくれてありがとー!」

「……ああ。そうか。役に立てないと思うが、葵も頑張れよー」

「そんなことないよ! どーもありがとー!」


 そう言って彼女はまた、九条くんへと向き合って話をしていた。


「……何の話?」

「アキラくんが皇をぶっ潰す話!」

「え。それっていいの? ダメだよね。参考にしたらもっとダメだよ?」

「かっこいいよね!」

「ダメでしょ。蛇口の次は会社を壊すの?」

「おお! なんとか怪獣みたいだね!」

「ならないでね。お願いだから。なれそうだから……」


 それからは、恐らく皆さんがきっとお腹を空かせて待っているだろうから、俺らも少し足を速めて旅館へと帰っていった。


(……あおい、さん)


 けど俺は、さっきのことが頭から離れなくて。
 きっと顔に出てたんだろう。そんな俺に、三人揃って眉間に皺を寄せていた。