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「あ、あおいさん……? 九条くんに関して、それだけは絶対にないと思うからね……?」
さすがに勘違いされたままだとあまりにも九条くんが可哀想だと思った俺は、「それだけは安心していいと思うよ」と説得。そんなこととは露知らず、暢気に寝ている九条くんには少々腹は立つけど。
「そっかそっか。浮気相手さんのこと、考えてるのかー」
でも、そんなことを言った彼女は、自分にもたれ掛かって眠っている彼をただ、愛おしげに見つめていて。……その姿が、とても綺麗で。儚くて。彼を何よりも想っていることが目に見えた瞬間。
“……ほんと。どうしちゃったんだろうね”
……愛おしさと寂しさが、音もなく交わってこぼれる。
言葉には到底表せられないような、その美しい光景と相まって。彼女の周りから一瞬、音が消えたような錯覚がした。
「……ん」
それから。彼の小さな声が上がると同時にその妙な感覚は消え、タイミングよく駅へと到着。電車は扉を開ける。
「うわ! 降りなきゃ! ヒナタくん! 起きて起きて!!」
まだ寝ぼけている彼を引き摺り、俺たちはなんとか無事に、熱海駅へと戻ってきた。
「ん~ん……。くわああ~……」
「中途半端に寝ちゃったから、余計眠いんじゃない?」
「ふあ~……。んー。……ん。それもあるかも」
「もう。……でも、今日はきっとぐっすり眠れるね」
「そうかも。いろんなハプニングで疲れたし」
「いやまあ、お騒がせして申し訳ないとは思うけ――」
「ズボン引っ剥がされそうになったときはどうしようかと」
「……!! あ、あれは、ヒナタくんが悪いんだからね!!」
「ねえ、何スイッチ? 何スイッチが入ったの?」
「あれは、お母さんスイッチである」
「え……。なにそれ」
「言うことを聞かない息子に対して押されるスイッチで、ア~ル」
「え。またロボットみたいになってるんだけど」
「ちょっと面白かったでア~ル」
「……しかもちょっと違うし。前の方がいい」
「ソウデスカ」
「そうそう(……そのスイッチは入れないように気を付けておこ)」
駅の改札を出て、旅館へと歩いて行く道のり。前にいた二人は、いつにも増して楽しそうにふざけ合っている。
「カオル。あおいさんが浮気相手のこと本気にしていたらどうするんですか」
「彼女も冗談だとわかっていた風じゃなかったですかあ~。ねえ? 皇さん?」
「ああ。俺が浮気相手だ」
彼らから少し離れた俺のすぐ近くからも、そんな二人を見ながらふざけた会話をしているみんなの声が、なんとなく、聞こえる。
「えっ。……ちょっと、皇さん。何ややこしいこと言ってるんですか」
「……? 間違っていらっしゃいませんよお?」
「ああそうだ。月雪、俺は葵の浮気相手だ」
「はあ!? ……え。ちょ……え? ちっ、違いますよね? 違いますよね!?」
「ええ~? けれど、婚約者候補さんであったわけですしい?」
「ああ。元だが、あの頃の本命はアイだろう? そう考えたら、俺は葵の浮気相手だったことになるようでならないかも知れないけど似たようなものだからそういうことにしておこうと思ったら、なんだかちょっといい気分だ」
「意味がわかりません!!二人とも結局はオレで遊んでいたってことでしょう!?」
「そうですよお~」
「その通り」
「酷い。酷いですっ。アイさんもなんか言ってください! 珍しく黙り込んでないで!!」
「…………」
「……? ……アイさん? アイさん」
「……え。え? な、なに? ごめん。聞いてなかった」
「あ、あおいさん……? 九条くんに関して、それだけは絶対にないと思うからね……?」
さすがに勘違いされたままだとあまりにも九条くんが可哀想だと思った俺は、「それだけは安心していいと思うよ」と説得。そんなこととは露知らず、暢気に寝ている九条くんには少々腹は立つけど。
「そっかそっか。浮気相手さんのこと、考えてるのかー」
でも、そんなことを言った彼女は、自分にもたれ掛かって眠っている彼をただ、愛おしげに見つめていて。……その姿が、とても綺麗で。儚くて。彼を何よりも想っていることが目に見えた瞬間。
“……ほんと。どうしちゃったんだろうね”
……愛おしさと寂しさが、音もなく交わってこぼれる。
言葉には到底表せられないような、その美しい光景と相まって。彼女の周りから一瞬、音が消えたような錯覚がした。
「……ん」
それから。彼の小さな声が上がると同時にその妙な感覚は消え、タイミングよく駅へと到着。電車は扉を開ける。
「うわ! 降りなきゃ! ヒナタくん! 起きて起きて!!」
まだ寝ぼけている彼を引き摺り、俺たちはなんとか無事に、熱海駅へと戻ってきた。
「ん~ん……。くわああ~……」
「中途半端に寝ちゃったから、余計眠いんじゃない?」
「ふあ~……。んー。……ん。それもあるかも」
「もう。……でも、今日はきっとぐっすり眠れるね」
「そうかも。いろんなハプニングで疲れたし」
「いやまあ、お騒がせして申し訳ないとは思うけ――」
「ズボン引っ剥がされそうになったときはどうしようかと」
「……!! あ、あれは、ヒナタくんが悪いんだからね!!」
「ねえ、何スイッチ? 何スイッチが入ったの?」
「あれは、お母さんスイッチである」
「え……。なにそれ」
「言うことを聞かない息子に対して押されるスイッチで、ア~ル」
「え。またロボットみたいになってるんだけど」
「ちょっと面白かったでア~ル」
「……しかもちょっと違うし。前の方がいい」
「ソウデスカ」
「そうそう(……そのスイッチは入れないように気を付けておこ)」
駅の改札を出て、旅館へと歩いて行く道のり。前にいた二人は、いつにも増して楽しそうにふざけ合っている。
「カオル。あおいさんが浮気相手のこと本気にしていたらどうするんですか」
「彼女も冗談だとわかっていた風じゃなかったですかあ~。ねえ? 皇さん?」
「ああ。俺が浮気相手だ」
彼らから少し離れた俺のすぐ近くからも、そんな二人を見ながらふざけた会話をしているみんなの声が、なんとなく、聞こえる。
「えっ。……ちょっと、皇さん。何ややこしいこと言ってるんですか」
「……? 間違っていらっしゃいませんよお?」
「ああそうだ。月雪、俺は葵の浮気相手だ」
「はあ!? ……え。ちょ……え? ちっ、違いますよね? 違いますよね!?」
「ええ~? けれど、婚約者候補さんであったわけですしい?」
「ああ。元だが、あの頃の本命はアイだろう? そう考えたら、俺は葵の浮気相手だったことになるようでならないかも知れないけど似たようなものだからそういうことにしておこうと思ったら、なんだかちょっといい気分だ」
「意味がわかりません!!二人とも結局はオレで遊んでいたってことでしょう!?」
「そうですよお~」
「その通り」
「酷い。酷いですっ。アイさんもなんか言ってください! 珍しく黙り込んでないで!!」
「…………」
「……? ……アイさん? アイさん」
「……え。え? な、なに? ごめん。聞いてなかった」



