すべての花へそして君へ②


 言いかけたところで、ちょっと慌てたアイくんから「も、もうすぐ着きますよっ!」と、声がかかった。三人が席を立ち、こちらへとやってくる。


「九条さ~ん。もうすぐ着きますよお~?」


 カオルくんがそっと肩に触れるけれど、ヒナタくんからは全く反応がない。どうやら、完璧に熟睡しているようだ。


「起きませんねえ」

「起きないね」

「起きないな」

「……」

「……? レンくん? どうかした?」


 起きないヒナタくんを見てただ一人、彼は少し眉を顰めていた。


「……いえ。そういえば最近、こいつが寝ている姿を見ていないなと」

「「「「え」」」」

「……なんで皆さん若干引いてるんですか」

「い、一緒に寝る仲なんだ」

「違います」


 鋭い突っ込み後、ゴホンと咳払いをしたレンくんは、彼が起きないのをいいことに、指で頭を結構強めに突く。


「いえ、いつも登校してきたら机に突っ伏すんです、こいつ」

「……!! れ、レンっ」

「でも、最近は起きてるんですよ。授業中も。いつも寝てるくせにどうしたのか。だから、久し振りに見たなと。そう思ったまでです」

「レンー……」

「ん? ……アイさん? なんですか?」

「なんでもないっ!!」


 そうは言うものの、アイくんはレンくんの脛目掛けて何度も蹴りを入れていて。もちろんそれをレンくんが回避することはできず、よくわかってないまま痛がっていたけど。


「あっ、あおいさんっ? きっと九条くんのことだから、あおいさんのこと考えてて眠れないんですよ!」

「もしかしたらあ、浮気相手のことを考えていらっしゃるのかもお~」

「か、カオル!? 九条くんに限ってそれはないから!!」

「わかりませんよお~? それはそれで、何を寝ずに考えていらっしゃるのか知りたくもなりますがあ」

「かっ、カオルっ! もうっ。お口チャックしてなさいっ!」


 そう言いながらアイくんは、レンくんとカオルくんの口を両手で塞いでいた。
 二人は、よくわからない彼の行動に、ただ首を傾げていて。わたしも、あれほどヤーヤー言ってたのに急にヒナタくんを必死になって庇い始めたアイくんに、一体この短時間で何があったんだろうかと、彼らと同じように首を傾げた。


「仲良いな、お前ら」

「アキラくん、何個目」

「……十個目です。もう無いです」