すべての花へそして君へ②


「……ほんとに、大丈夫?」


 静かになったヒナタくんにそう声をかけながら、今ではもう見慣れた黒いふわふわの髪を、そっと撫でる。


「ん。大丈夫。……ありがと」


 素直に言ってくる辺り、本当に気分を悪くさせてしまったんだろう。……ちょっと反省。


「……どうして怖くなっちゃったの?」

「別に、そこまで怖くないよ。気分を害すだけ」

「……じゃあ、どうして気分を害すように?」

「……」


 目元に置いていた濡れタオルを再び少しずらし、視線は逸らしたまま、彼は話す。


「……むかし、あんたが」

「うん」

「怖い話……とか、したから」

「……うん?」


 た、確かにあの花畑では、遊ぶだけじゃなくていろいろ話をしたりもしたんだけど。その中に、怪談もあった。
 まあ母の受け売りというか。『あ。またいる。ダメよ! この子に憑いちゃダメ』とか、よく天井に向かって会話をしていたので、その話を。もちろん、母が怖い話もしたのでその話もしたけれど……。
 後々聞いてみたら、どうやらあの社の中にある『精神力の強化その①』が怪談らしい。わたしは……まあ、怖くなんてなかったから、キャッキャと聞いていたけれど。


「わ、わたしが原因っすか」


 何も言わず、彼はゆっくり頷いた。……どうやらそうらしい。


「じぇ、ジェットコースターは……?」


 さすがにこれは自分が原因ではないだろうと思ったけれど……。


「あんたにものすごい勢いで投げ飛ばされたから」

「え」


 そ、そういえば遊んでいるときに、彼のことを高い高いと称して思い切り上に投げ飛ばした覚えも……もちろんある。父にしてもらっていたのが楽しかったから、彼にもしてあげようとして。そんでもってわたしは、それをキャッチして楽しんでいたけれど……。


「わ、わたしが原因、っすか」


 彼はただ無言で。一度だけそっと、瞬きをした。……おう。


「そ、そんな風にしてしまったわたしのこと、よく嫌いにならなかったね……」


 あの頃はね、あなたといられるのがとっても楽しかったんですー。それでいてはしゃぎまくってたんですー。自分が好きなものはみんな好きだと思ってたんですー……。
 もうね、あんなことはしないからね……? 君に嫌われるのだけは嫌だから。


「嫌うわけないじゃん」

「……え」


 耳に。確かにそう、今、なんとか届いたんですけど。言った本人は、また目元にタオルを乗せて逃げていらっしゃいました。


「……そっか。よかった」


 彼も同じ気持ちだとか。こんな喜ばしいことはない。嬉しい気持ちが伝わるように、寝ている彼の頭を撫でる。


「……あ、のさ」

「ん……?」

「あ。……い、いや」


 照れくさかったのだろうか。じっとしていられずに、ちょっとそわそわしてたり。最終的には、赤くなった耳を隠すように、顔に掛けていたタオルを広げて逃げられちゃったけど。


「……ふふっ」

「……な、なに」

「また、モミジさんに会いに行こうね」

「……そうだね」


 それにはもちろん、気付かない振りをしてあげた。