「……ほんとに、大丈夫?」
静かになったヒナタくんにそう声をかけながら、今ではもう見慣れた黒いふわふわの髪を、そっと撫でる。
「ん。大丈夫。……ありがと」
素直に言ってくる辺り、本当に気分を悪くさせてしまったんだろう。……ちょっと反省。
「……どうして怖くなっちゃったの?」
「別に、そこまで怖くないよ。気分を害すだけ」
「……じゃあ、どうして気分を害すように?」
「……」
目元に置いていた濡れタオルを再び少しずらし、視線は逸らしたまま、彼は話す。
「……むかし、あんたが」
「うん」
「怖い話……とか、したから」
「……うん?」
た、確かにあの花畑では、遊ぶだけじゃなくていろいろ話をしたりもしたんだけど。その中に、怪談もあった。
まあ母の受け売りというか。『あ。またいる。ダメよ! この子に憑いちゃダメ』とか、よく天井に向かって会話をしていたので、その話を。もちろん、母が怖い話もしたのでその話もしたけれど……。
後々聞いてみたら、どうやらあの社の中にある『精神力の強化その①』が怪談らしい。わたしは……まあ、怖くなんてなかったから、キャッキャと聞いていたけれど。
「わ、わたしが原因っすか」
何も言わず、彼はゆっくり頷いた。……どうやらそうらしい。
「じぇ、ジェットコースターは……?」
さすがにこれは自分が原因ではないだろうと思ったけれど……。
「あんたにものすごい勢いで投げ飛ばされたから」
「え」
そ、そういえば遊んでいるときに、彼のことを高い高いと称して思い切り上に投げ飛ばした覚えも……もちろんある。父にしてもらっていたのが楽しかったから、彼にもしてあげようとして。そんでもってわたしは、それをキャッチして楽しんでいたけれど……。
「わ、わたしが原因、っすか」
彼はただ無言で。一度だけそっと、瞬きをした。……おう。
「そ、そんな風にしてしまったわたしのこと、よく嫌いにならなかったね……」
あの頃はね、あなたといられるのがとっても楽しかったんですー。それでいてはしゃぎまくってたんですー。自分が好きなものはみんな好きだと思ってたんですー……。
もうね、あんなことはしないからね……? 君に嫌われるのだけは嫌だから。
「嫌うわけないじゃん」
「……え」
耳に。確かにそう、今、なんとか届いたんですけど。言った本人は、また目元にタオルを乗せて逃げていらっしゃいました。
「……そっか。よかった」
彼も同じ気持ちだとか。こんな喜ばしいことはない。嬉しい気持ちが伝わるように、寝ている彼の頭を撫でる。
「……あ、のさ」
「ん……?」
「あ。……い、いや」
照れくさかったのだろうか。じっとしていられずに、ちょっとそわそわしてたり。最終的には、赤くなった耳を隠すように、顔に掛けていたタオルを広げて逃げられちゃったけど。
「……ふふっ」
「……な、なに」
「また、モミジさんに会いに行こうね」
「……そうだね」
それにはもちろん、気付かない振りをしてあげた。



