その道中話を聞いてみると。最初はモミジさん、自分を霊だとは言っておらず。ヒナタくんの方も本当にわたしの“もう一つの人格”だと思っていたから、彼女に対しては何とも思っていなかったという。
それなら、なんで霊だとわかった時に、こういうことにならなかったのかって聞いたら……。
『それどころじゃなかったから』
――と、一言。な、なんだか申し訳ないような。でもよかったような……。
「い、生きてますか~……?」
「死んでマース」
ただ気分が悪くなる程度のことだったので、そこまで大事にならずに済んだけど。
只今船場に戻り中。公安の人たちも、果てしない捜索に幕を下ろせそうで一安心しているのか、頬が緩みきっていた。……それはさておき。
「ねえ。九条くんばっかりいいとこ取りじゃない?」
なんだかムスッとしているアイくんに、ヒナタくんは。
「は? そんなの特権だからに決まってるでしょ」
なんだかもう元気そうな声だけど。目元に乗せた濡れタオルをずらしながら、ヒナタくんはしれっとそんなことを言っている。
「ヒナタくん? もう元気なら起きる?」
「ううぅ……。気持ち悪っ」
「ありゃま」
「あおいさん! それ絶対嘘だから!」
「嘘じゃないも~ん」
一応簡易のベッドはあるので、そこにしたらいいのにと言ったのだけれど……。
『こうなった責任を取ってください』
なぜかそんなことを言われて、わたしの太ももは現在、ヒナタくんの枕になっております。
「……よしっ。あおいさ~ん。俺も船酔いしちゃった~……」
「え? だったらそこにベッドが」
「あおいさんの枕がいい!」
「いや、わたしの足は枕ではないのだけれど」
「人の体温って落ち着くでしょ? 船酔いにはね、それがいいんだって!」
「……だったら、カオルくんの膝貸してもらったらいいんじゃないかな?」
「はあ~い。アイさん? どおぞどおぞ」
「い、いや。いいです。結構です。元気です……」
しょんぼりしたアイくんは、カオルくんの横にちょこんと座った。……ちょっと元気がなくなったから、もしかしたら気分が悪くなったのは本当なのかも知れない。大丈夫かな。
「……やっぱりあおいさん。対応がサバサバしてるよお……」
「それはそうでしょうアイさん。そこは九条を立てて上げてくださいよ」
「ぼくはいつでも貸してあげますよお~? お・ひ・ざ」
「アイ。俺のも貸せる」
「要らないから……っ!」
的な会話を、他の男性陣がしてるのは、葵の耳には届かなかったが、ヒナタにはなんとな~くわかったらしい。



