すべての花へそして君へ②


 その道中話を聞いてみると。最初はモミジさん、自分を霊だとは言っておらず。ヒナタくんの方も本当にわたしの“もう一つの人格”だと思っていたから、彼女に対しては何とも思っていなかったという。
 それなら、なんで霊だとわかった時に、こういうことにならなかったのかって聞いたら……。

『それどころじゃなかったから』

 ――と、一言。な、なんだか申し訳ないような。でもよかったような……。


「い、生きてますか~……?」

「死んでマース」


 ただ気分が悪くなる程度のことだったので、そこまで大事にならずに済んだけど。
 只今船場に戻り中。公安の人たちも、果てしない捜索に幕を下ろせそうで一安心しているのか、頬が緩みきっていた。……それはさておき。


「ねえ。九条くんばっかりいいとこ取りじゃない?」


 なんだかムスッとしているアイくんに、ヒナタくんは。


「は? そんなの特権だからに決まってるでしょ」


 なんだかもう元気そうな声だけど。目元に乗せた濡れタオルをずらしながら、ヒナタくんはしれっとそんなことを言っている。


「ヒナタくん? もう元気なら起きる?」

「ううぅ……。気持ち悪っ」

「ありゃま」

「あおいさん! それ絶対嘘だから!」

「嘘じゃないも~ん」


 一応簡易のベッドはあるので、そこにしたらいいのにと言ったのだけれど……。


『こうなった責任を取ってください』


 なぜかそんなことを言われて、わたしの太ももは現在、ヒナタくんの枕になっております。


「……よしっ。あおいさ~ん。俺も船酔いしちゃった~……」

「え? だったらそこにベッドが」

「あおいさんの枕がいい!」

「いや、わたしの足は枕ではないのだけれど」

「人の体温って落ち着くでしょ? 船酔いにはね、それがいいんだって!」

「……だったら、カオルくんの膝貸してもらったらいいんじゃないかな?」

「はあ~い。アイさん? どおぞどおぞ」

「い、いや。いいです。結構です。元気です……」


 しょんぼりしたアイくんは、カオルくんの横にちょこんと座った。……ちょっと元気がなくなったから、もしかしたら気分が悪くなったのは本当なのかも知れない。大丈夫かな。


「……やっぱりあおいさん。対応がサバサバしてるよお……」

「それはそうでしょうアイさん。そこは九条を立てて上げてくださいよ」

「ぼくはいつでも貸してあげますよお~? お・ひ・ざ」

「アイ。俺のも貸せる」

「要らないから……っ!」


 的な会話を、他の男性陣がしてるのは、葵の耳には届かなかったが、ヒナタにはなんとな~くわかったらしい。