すべての花へそして君へ②


 そして、もう一つ。


「すみませーん! 皆さんもよければお願いします!」


 さすがに、本物は荷物になってしまうからと彼に言われてしまったので。
 彼が持ってくれていた、小さな紙袋。その中へ全員に手を入れてもらい、それを一握り掴んでもらう。


「いいですか? それじゃあ――――……せーのっ!」


 そして海へ。彼女へ。

 ひら……。ひらひら……。
 ひら……。……ひら。

 それは、花びらに見立てた、水に溶ける色紙を小さく小さく切ったもの。
 日が少し傾き、オレンジ色の空へと変わる頃。空は海は、たくさんの花に彩られた。

 手紙は、もしかしたら届かないかも知れない。……それならば。
 彼女がいたからこそ咲かせられた、たくさんの花の景色を見せてあげたかったのだ。


 ……花が舞う。それを、ひとりひとり、言葉を発することなく。ただ舞い散る姿を、目に焼き付ける。
 きっと各々、心の中で彼女へ話しかけているだろう。


「……届け」


 どうか届いて。この思いも景色も。何もかも。


「大丈夫届くよ。届いてなかったらしばく」


 そっと重なる手。ゆっくりと絡まる指。この温かさを感じられるのも、彼女が起こした奇跡だ。
 隣の彼に出会えたのも。隣の彼と仲良くなれたのも。隣の彼を、信じていられたのも。隣の彼を、何よりも愛しいと……そう、思えたのも。


「……好きです」


 オレンジに染まりだした空を。未だに舞う花を。花に彩られた海を。真っ直ぐ見ていてこぼれた言葉。
 それに返してくれたのは、強く強く握られた手と。微かに届いた「オレも」の言葉。

 赤く赤く染まる空。それとは違う、もう一つの理由で。わたしたちの頬は、赤く染まった。