ふっと笑った彼は「わかってるよ」と。そして「焦らされた挙げ句お預けか~」そんなぼやきと一緒にゆっくりと腰を上げる。……そんなこと言えるくらいには、もう十分逆上せは治ったらしい。
(それはこっちの台詞じゃいっ!!)
紙袋を持って部屋から出て行こうとする彼の背中に、大きく振りかぶって時速200キロ級の言葉を投げ飛ばす。まあ実際にそんなこと言ったら、「じゃあいいよね?」とか言って絶対襲ってくるだろうから、なんとか飲み込んでおいたけど。
――だからもう、言わずに行動で示してやった。
「えっ――。……んっ」
胸倉を掴んで引き寄せる。……君だけじゃ、ないんだぞこんちくしょうっ。
「こ。これくらいなら。きっとモミジさんも。許してくれると……思うので」
ただでさえ恥ずかしいのに、離れるときに出てしまった音で顔中灼熱地獄。お互い真っ赤になってるのは、もうどうやったって隠しようがない。
だから、もう知らないっ。
「あ、あと! わたし言ったもん……! わ、わたしだって、したくないわけじゃないって!!」
軽く突き飛ばしながら彼から紙袋を引ったくり、マッハで部屋から飛び出した。
もう一回海、入ってこようかな。そうしたらこの沸騰した体、治まってくれるかな。そんなことを片隅に思いながら。
「……言い逃げ、って」
一人、残された静かな部屋。小さくこぼしたはずなのに、結構響いた独り言。そう口からこぼれた途端。一気に力が抜け、そんな中途半端な態勢から完全にへたり込む。
「……うわ。やばっ」
立ち上がろうとしたけれど、全く立てず。完全に骨抜きにされたんですけど。
「なに、今の。……っ、もうちょっとオレ優先にしても、モミジ怒んないでしょ絶対……っ!!」
可愛いことしてくれやがった彼女にそう文句をこぼす一方で、確かに触れてくれた唇へ、そっと指を這わす。……何やってんだ。女子か、オレ。
「……ぁぁああもうっ……! なん、なんだよあいつ……」
しばらくは、あああああと唸りながら、赤く緩んだ顔を腕の中に隠していた。



