そうしていると、公安の人から合図が。……どうやら、見つけてあげられたみたいだ。
「……よし。あとは、大丈夫でしょうっ」
大体の的は絞った。あとはもう勘だ。勘に頼って、ただ海を泳いでいただけ。それで、ここだ! っと思ったところを潜ったら、二隻の舟だったものと彼女が見つかったから……。
何も言わなくなったわたしに、みんなは揃って首を傾げていたけれど、なんとなく察してくれたのか、それ以上聞いてくることはなかった。
「……ちょっと、部屋に行ってくるね?」
ちゃんと見つけてあげられたら、彼女にしたいことがあった。
そうみんなに告げ、急いで荷物を置いた部屋へと戻っていったらなんと! 顔に白い布をかけた人が倒れていた!! えっ、うそ。どうしよう……! まさかわたし、殺人現場の第一発見者……!?
「って。 おーいヒナタくん。大丈夫か……?」
公安の人から服を借りたんだろう。だから一瞬、本気でそんなこと思ってしまったじゃないか。
未だ返事のない彼からは、ホカホカと湯気が上がっているようにみえる。……体も、少し赤いような。
「……えっ。 ちょ、ちょっとヒナタくん。本当に大丈夫……?」
「……逆上せた」
「ど、どうしてそんなになるまで浸かってたの……」
取り敢えず氷か何かを持ってこようと、部屋を出ようと立ち上がったら、足を引っ掛けられ転かされた。完全に油断してたせいで、床さんと熱い熱いキッス。
……ちょっと。人の唇をなんだと。これ以上低い鼻が真っ平らになったらどうしてくれるんだ。これはあれか? さっきの続きをここでしようってか? よっしゃその喧嘩買ってやる。元気なら手加減しねえ――
「……怒って、ますか」
……What's?
振り返ったそこには、頭からタオルを掛けて申し訳なさそうに俯いていらっしゃるヒナタくん。本当に彼が、今さっきわたしの足を引っ掛けたのだろうか。
「……怒ってはない」
「ほんとに……?」
母親に怒られる寸前の子どものように、小さく震えているこの子が。……違う。いや、引っ掛けたのは事実だけど。ただ、行ってしまうのを引き留めたかっただけ。離れて欲しく、なかっただけ。
「うんっ。全然怒ってないよ?」
ちょっと甘えたかっただけなんだよね。危うく第2ラウンドするところだった。まあ、顔面強打したから痛いけど。
「でも、なんで怒ってるなんて思ったの?」
「風呂に行ってって、……行かなかったから」
「いや。なぜそんなことで怒る……」
「へ、……変なスイッチ、入ってから、おかしくなった……から」
ここまでヘタレなのも珍しい。そんな彼に小さく笑いながら、未だ濡れている髪を拭いてあげる。
「ちゃんとあったまってきた?」
「……えっ」
「リンゴみたいなほっぺだし、逆上せるまで反省したみたいだから、大丈夫かな?」
「……あおい」
何よりも優先すべきだったのは、君があったまること。
もしかしたら今頃、風邪引いちゃってたかも知れない。せっかくの旅行が台無しになっちゃってたかも知れない。みんなに、迷惑かけちゃうかも、心配かけちゃうかも知れない。それは、君も嫌だもんね。



