「しら、ないっ……!」
どれだけ必死なのって、笑われようとも。ただ、「ううぅぅー……」と唸って只管威嚇。
「……ふはっ。説得力な」
楽しげに笑うのもお構いなしに唸り続けた。
そもそもね、こんなことしてる場合じゃないんだよ? あなたさっきまでどんな危ないことしてたか覚えてる!? 何しにここまで来たか、ちゃんとわかってるの?!
「……あおい」
「何」
「何して欲しい……?」
「シャワー浴びてきて欲しい」
そうだよ。この、つーめたくなった体を早くあっためないと。せっかくの旅行なのにヒナタくん、風邪引いちゃう。そんなのダメだよ。
「違うでしょ? もっと、違うこと」
違わないから。今一番にしなきゃいけないことはそれだから。ここは、心を鬼にしなければ。
<ここからは、シャワールームの音声のみでお楽しみください>
「……ねえ。いつまでオレに、お預け食らわせるの」
「お預けも何も、さっさとシャワー浴びてきてって言ってるの」
「嘘ばっかり。そんなこと期待してないくせに」
「期待も何も、さっさと体あっためて来いって言ってるの」
「さっきまであんな顔しておいて?」
「さすがのわたしでも、鏡がないと自分の顔は確認できない」
「あるよそこ。ちゃんと見てきて? それでオレの目見て教えて?」
「そんなことしなくていいから。さっさとシャワー浴びてきて」
「…………」
「…………」
「や。ダメ。あんなんじゃ全然足りない」
「髪濡れてるけど」
「オレにはこっちの方が重要」
「指震えてるけど」
「あんな顔見せられてシャワー? ごめんけど、オレの理性の箍甘く見ない方がいいよ。とっくの昔に外れてんだから」
「指冷たいんだけど」
「言っとくけど、一度決めたらとことんやるのがオレのモットーだからね。早くキスさせて」
「唇真っ青だけど」
「………………」
「………………」
「じゃああおいがキスであっためて」
「だからシャワー浴びてきてって」
「あおいがオレのことあっためて」
「……だからシャワーに」
「ていうかもう限界だから。こっち向いて。早くキスさせて」
「行ってきてって……」
「……まだそんなこと言うの。あおい、しつこい」
「…………――カチッ」



