すべての花へそして君へ②


「しら、ないっ……!」


 どれだけ必死なのって、笑われようとも。ただ、「ううぅぅー……」と唸って只管威嚇。


「……ふはっ。説得力な」


 楽しげに笑うのもお構いなしに唸り続けた。
 そもそもね、こんなことしてる場合じゃないんだよ? あなたさっきまでどんな危ないことしてたか覚えてる!? 何しにここまで来たか、ちゃんとわかってるの?!


「……あおい」

「何」

「何して欲しい……?」

「シャワー浴びてきて欲しい」


 そうだよ。この、つーめたくなった体を早くあっためないと。せっかくの旅行なのにヒナタくん、風邪引いちゃう。そんなのダメだよ。


「違うでしょ? もっと、違うこと」


 違わないから。今一番にしなきゃいけないことはそれだから。ここは、心を鬼にしなければ。


<ここからは、シャワールームの音声のみでお楽しみください>


「……ねえ。いつまでオレに、お預け食らわせるの」

「お預けも何も、さっさとシャワー浴びてきてって言ってるの」

「嘘ばっかり。そんなこと期待してないくせに」

「期待も何も、さっさと体あっためて来いって言ってるの」

「さっきまであんな顔しておいて?」

「さすがのわたしでも、鏡がないと自分の顔は確認できない」

「あるよそこ。ちゃんと見てきて? それでオレの目見て教えて?」

「そんなことしなくていいから。さっさとシャワー浴びてきて」

「…………」

「…………」

「や。ダメ。あんなんじゃ全然足りない」

「髪濡れてるけど」

「オレにはこっちの方が重要」

「指震えてるけど」

「あんな顔見せられてシャワー? ごめんけど、オレの理性の箍甘く見ない方がいいよ。とっくの昔に外れてんだから」

「指冷たいんだけど」

「言っとくけど、一度決めたらとことんやるのがオレのモットーだからね。早くキスさせて」

「唇真っ青だけど」

「………………」

「………………」

「じゃああおいがキスであっためて」

「だからシャワー浴びてきてって」

「あおいがオレのことあっためて」

「……だからシャワーに」

「ていうかもう限界だから。こっち向いて。早くキスさせて」

「行ってきてって……」

「……まだそんなこと言うの。あおい、しつこい」

「…………――カチッ」