ぽつりぽつりと彼が話してくれたのは、道明寺の事件が無事終結した直後、皇邸で聞かされた、わたしに残された未来への選択肢だった。
『え。……じょ、冗談……ですよね』
『え? いいえ、これは冗談ではないのよ』
本当はもっと重かったのだけれど、わたしのことを買ってくれたおかげでそれで事が済んだのだと。コズエ先生は心底からの喜びを隠せずにいたらしい。
けれど、その内容は彼にとって到底喜べるようなものではなかった。
何故この人はこんなにも喜んでいるのか。彼女を目の前にして、この人は狂っているのではないかと。そんなことまで、考えてしまったそうだ。
『な、なんでですか。だってあいつは何もしてないって……』
『ええ、確かに言ったわ。あおいちゃんは、と』
『どういうことですか……』
『さっきも言ったけれど、あおいちゃんは何も咎められることはないわ。“彼ら”もきちんと証言をしたから、それは勿論お咎めなし』
けれど、よく考えてみればわかることだった。
次に彼女が言った言葉を理解した頃、彼の目の前は真っ暗になる。
『……残念だけれど、望月紅葉さんは重罪なのよ』
驚異的な薬、そして機器の発明、及び偽造。これが、彼女の犯した罪であり、犯した本人。
たとえ彼女が無理矢理したことではないにしても、その物質も痕跡も、赤い瞳の証明も残っている。これは、隠しようもない事実だった。
『シントくんが罪を免れたのは、薬に触れてすらいないから。けれど、彼女は触れてしまった。そして、すごく危険なものまで作ってしまったの。でもそれが、あの家の中で止まっていたからこそ、被害は広がらず、そこまで大きな罪にはならなかったのよ』
彼女の罪は、本当はもっともっと重いものだった。けれど、幸運に幸運が重なって、ここまで軽くなったのだという。
わたし自身は、何もしてはいないということ。正気になった彼らが、無理矢理作らせた、学校に行かせたのだと言ったこと。偽造に関してはそれ一回だけだったこと。あの家から薬や機器が流出していないこと。彼女のことを誰も咎めるものがいないこと。
そして、作った本人――……偽造者が、すでに死亡していること。
『異例中の異例よ。もっと喜んでくれると思ったのだけれど』
それでも、彼は喜べなかった。
それは、自分の恋人の未来が、二つに一つ。はじめからつらく苦しいものと決まっていたからだ。



