落ち着いたらすぐに戻るつもりだったのに、どうしてよりにもよってカエデさんに見つかったのか。熱海に来ている誰よりもマシだったけど、なんでここまでチキンチキン言われないといけないのかわからない。
オレのせいじゃない。全部可愛いあいつのせい。
「って、それはもういいんです。実はあいつ今、ちょっと体調がすぐれなくて」
「おいおいおい。体調悪いアオイちゃんに襲われたのかよ……」
「いえ。先にオレがちょっと襲いました。元気なのを確認してから」
「……おい。体調悪いアオイちゃん襲ったのかよ」
言い訳になるけど、誘ってきたのは向こうだ。
でもよく考えたらオレ、男としていろいろ不味いんじゃ……いや、そもそもそういうことをしてくるあいつが悪い。そのことは一先ず置いとこう。
「ちょっと、本気で体調悪そうだったんで別室に寝かしてるんです」
「ん? ……ああ、例の部屋か」
「ご存じでしたか」
「一応な。案内されたときに聞いた。お前の使い方の方が正しいんだから気にすんな」
「はは。襲いましたけどねー」
「襲われたの間違いじゃねえか?」
図星だからなんも言えねー。
「まあ状況は把握した。今日はついててやるのか」
「はい。ついてます」
「そうしてやれ。それじゃあ、一応大人組には言っておくな」
「……はい。お願いします」
みんなに心配をかけたくはないんだろうけど。でも、事情を知っている人は多い方がいい。キクもあんなだけど、なんだかんだでちゃんとしてるし。カエデさんなら、存分に頼れる。
「じゃ、また何かあったら言えよ」と、彼は喫煙所の方へと足を進めていった。どうやらまた、性懲りもなく煙草を吸いにいくらしい。
……いろいろ聞いてもらったし、今回は見逃しておこう。
(大っきいな……)
その背中は、広く頼もしく見えた。
羨ましさが、心の中を渦巻いた。



