それからなんだかんだと話をして、これでもかと言うほど弟、弟と無駄に弄られ、ようやくかき氷屋に帰ってくれるのかと思ったら、どうやらオレにだけ用があったらしい。
 正直もう関わりたくはなかったのだけれど、これが最後と言い聞かせ、重い足を動かした。


「なんですか」

「さっきのこと。気にしてるかなと思って」

「あんたの存在自体が気に障ります」

「……やっぱり弟くん、正直者だね」


 彼が何を訊いているのかはわかっている。
 でも、取り敢えず言いたかったんだ。正直に。


「……それで?」

「今、こうしてるのが答えです」

「と、いうと?」

「張っていた気を、あんたは緩めた」

「…………」

「だからオレは今、こうしてあんたと真っ正面から話してる。拘束されず、ちゃんと息ができてる。そういうこと」

「……そういうの、なんて言うか知ってる? “甘い”っていうんだよ」

「はい、知ってます。……でも」


 ……もし、たとえそうだとしても。


「喜んでるみたいなんで。今はいいです。癪ですけどね」

「……今は、か」

「それに、虚しいことにオレがあいつを守れる日なんて、一生やってこないんで」

「……やっぱり甘ちゃんだね、君たちは」

「そうですね。そうかもしれません」

「……君は、いい人たちに恵まれたんだね」

「そう思います」


 今はっきりと言えるのは、オレとあなたは全く違うということ。
 水と油みたいなもの。彼と相容れることはないだろう。


「それじゃ。彼女待たせてるので、もう行きますね」


 けれど、そうして擦れ違いざま聞こえた声に、オレの中で何か。……カチカチと音を立てながら、パズルのピースのようにはまっていった。


「……じゃあ、君のまわりの優しい人たちは、だあーれも教えてくれなかったんッスね」