けれど、タイミングよくしゃがみ込んだ彼女に、それが当たることはなく、運良く誰にも当たらずに済んだようだ。


「(……今のは本当に偶然か? 一応報告あげておくか……)」


 オレがほっと息を吐いていると、彼は何かを呟いていた。
 はっきりとは聞き取れなかったが、ピンと空気が張り詰めたのは確か。

 下手に動くと危ない感じのするそれは、今まで見たことも感じたこともない、こいつの一面だった。


「あーあ、五体満足で帰ってきちゃった。残念」

「っ!! あおい! 離れ、――んぐっ!!」


 そして、そんなこととは露知らず。
 あっけなく片手で口を塞がれ身動きさえもとれなくなっているオレを見て、帰ってきた彼女は暢気に仲良しだ何だと言っている。

 ……おい。何がお守りだ何が。


「はいこれ。葵ちゃんにプレゼント」

「んっ!? んんんー……!!」


 そして、紙パックとは違うが、またゴミを取り出して彼女に渡そうとする。
 端から見たらただのゴミだけど、それもきっと何かが仕掛けられているに違いな――――


「……残念だけど、君じゃ彼女は守れない」

「……!!!!」


 絶対仕掛けてる!!

 でも、オレが必死に伝えようとしても、全然こっちに見向きもしないで、なんかビニールゴミ凝視してるんですけどこの人!!
 バカ!! おいバカッ! 危ないっつってんだよバカ……!!

 必死にもがきながら隙を見て腕から逃げようとするものの、動いた分だけその拘束は酷くなった。
 全くと言っていいほどこいつには隙がない。今に、体や口だけでは済まなくなるだろう。


(あおい! 頼むから今すぐこいつから離れて……!!)


 まるで、アイやミズカさんと本気でやり合ってるような……圧倒的な強さに、呼吸をするのさえやっと。
 けれど、このままじゃいけないと。何とかしようと、酸素の回らない頭を必死に動かしていた、オレの耳には――


“残念だけど、君じゃ彼女は守れない”


 嫌な言葉が、しつこくまとわりついていた。

 しかし、パチンと鳴った次の瞬間、そんなことを考えていたオレの頬に、冷たい何かが降ってきた。
 そして、なぜか彼女は手の平の上に乗ったそれに、嬉しそうな声を上げている。

 もうビニールゴミの姿なんか跡形もなかった。その代わりにあった、雪のような氷とペンギンのキーホルダー。


(いつ仕掛けたんだ。わかんなかった)


 確かにソワソワ……冷や冷やしていたけれど。こんな大掛かりの仕掛けに気付かないなんて不覚なんだけど。
 でも、だったら気のせいなのだろうか。嫌な感じがしたのって、危険というよりも、今こんな状況になっても隙がない強さ的な意味だったのか。


(それに、さっきまで纏っていた空気よりも柔らかい感じがする)


 そう思うと、体から無駄に入っていた力が抜けた。
 そうしたら、緊張から解放されたせいか、周りがよく見えるようになった。気付けるようになった。


「……苦しかった? ごめんね」

「いえ」


 こいつからは少しだけ、甘い匂いがした。