「弟くん、結構素直って言われるでしょ」
「え? い、いえ、どっちかというとその反対ですけど……」
「ははっ。別に嘘つかなくていいのに」
「え? えーっと」
いきなりそう言いながら笑い出した彼は、続けてこう言った。
ばっちり顔に出てるよ、と。
「あっ。これは……その」
「ほら。素直だ」
「……それは、あなたがちょっかい出してくるからで」
「え? 俺はもう別にちょっかい出してないけど?」
「っ、じゃあ正直に言いますけど」
どうも、あの熱海以降あなたの印象がオレの中では悪いので。あいつはどうか知りませんけど。ていうか、自分の彼女があんな風にほいほいナンパされていい顔する彼氏なんていないと思いますけどっ!
「そう? 俺なら、自分の彼女がナンパされるなんて自慢ものだよ」
「あんたと一緒にしないでください」
「え? そうなの? 俺って少数派なんだ」
ああわかった。この人と考えが丸っきり違うからだ。そうだ。絶対そうだ。
だからこんなに頭痛いんだ。あいつとは違った意味で。
「一つだけ忠告しておくと」
「はい?」
いきなりそう言い出したかと思ったら、いつの間にか彼はズズズと音を立てながら紙パックのお茶を飲み干そうとしていた。人が買ってきたものを勝手に……。
「いい線はいってるんだけど、それを顔に出したらいけないね」
「は、はあ……?」
「なんか嫌だな~……って思うのはどうしてか、弟くんはわかる?」
そしてどうやら、綺麗に飲み干してしまったらしい。パコパコといわせながら、綺麗に紙パックを広げていく。
……その様子を見ながらオレは、先程彼が言った意味を考えていた。
「答えは、俺が君に嘘をついている悪い大人だから」
「……嘘?」
「そう。嘘」
そして広げたそれを彼はきっちりと折り、広げたそこを爪まで使い、綺麗にぺしゃんこにした。
「たとえば、この何の変哲もないただの紙パック」
「……」
「本当に何でもない紙パックだったよね? だって君が買ってきたんだから」
「わかってて勝手に飲んだならあとでちゃんと金払ってくださいね」
「ん? 彼女をナンパ男から救ってあげたなら安いものじゃない?」
お前も元ナンパ男だっつの。
「大丈夫大丈夫。ちゃんとあとでお金は払うよ」
「別にいいですよ。今までのこと、それでチャラにするので」
「そっかそっか。弟くんは優しいね」
「……だから、弟じゃないって言って」



