「彼女がいるので。……すみません」


 いろんなプールではしゃぐ彼女を見守っていればあっという間に時間が経ち、気付けばちょうどお昼時。
 あれだけ動いてさぞお腹が空いたであろう彼女のために、オレは昼ご飯を買いに彼女と別れたが、ものの数分で格好つけるのではなかったと、一緒に買いに来ればよかったと後悔していた。
 ただ昼飯を買いに来ただけなのに。一体これで何人目だ。


(……ちょっと遅くなったから待ってるだろうな)


 そんなことを考えながら今までのことを振り返っていると、楽しそうに笑っている彼女の顔が思い浮かんだ。正直、プールはどうしようか悩んだが、熱海では悔しそうにしていたし。連れてきて正解だっただろう。
 まあ、水着に関して、オレの願望がなかったとは言わないけど。


「えーっと。確かこの辺のベンチに」


 そのときオレの視界に映ったのは、正直もう二度と見たくもない顔だった。
 ……なんで、こんなところにナンパ野郎がいるんだよ。


「ん? バイトだよバイト。苦学生は大変なんだよ」


 そんなどうでもいいことはさておき、オレが買い物に行っている間、彼女の方もまたナンパにあっていたみたいだった。
 やっぱり、一緒に連れて行けばよかった。そうしたら今、目の前にいる奴とも会わずに済んだかもしれないのに。


「たくー。そもそも帰りが遅いんじゃない? 彼女ほっといてナンパとかされてるから弟くん」

「えっ! ヒナタくんナンパされてたの」

「されたくてされてたわけじゃねえし。気付いてたんなら助けろよ」

「……されてたんだね」


【何が】というのははっきりとはわからない。けれど、どうしてもこの人の【何か】が、なんか嫌なんだ。本当、何がかは皆目わからないが。
 つうか見てたんならこっちも助けろよ。やっぱ腹立つなこいつ……。

 しかも、そのあと彼女が「ちょっとお手洗いに行ってくるね!」と言い出す始末。
 すぐそこにあるから、迷子になることはないだろうけど……。


「あのシャツは弟くんの独占欲の表れかな?」

「だったら何だって言うんですか」


 こいつと二人っきりとか嫌なんだけど。早く帰ってきて欲しいんだけどっ。


「仕事中、じゃないんですか。こんなところで油売ってていいんですか」

「昼休憩だよ。さすがの俺も、ずっと仕事できるほどマゾじゃないよ」


 あっそうですか。興味ありませんけどね。あんたがSだろうとMだろうと。


「はは。嫌われちゃったかな?」

「え。……いえ、別に嫌いというわけでは」


 嫌いというよりは、嫌という感じだ。こう、どうやってもちょっと無理な感じ。
 って、それって結局嫌いなんじゃ……。