そして、本当に魔法をかけるように、指先でツンと俺のおでこをつついた。
「困ったときは苦しいときは、自分の道理に外れないように、上手く逃げ道を作るんだよ」
「……さっきのが、そうだと?」
「そう。わたしが、魔法でアイくんの気持ちの逃げ道を作ってあげたの」
確かに、彼には『絶対に言わないでくれ』と言われただけで、『書くな』とは言われてはいない。
けど、だからって結局は同じことで、彼の意思を無視することと一緒だ。
「アイくん」
「は、い」
「わたし、言ってないよ?」
「……え?」
「言ってない。誰も、『全部教えてくれ』なんて酷なこと、言ってないんだよ」
それは逃げ道じゃない。ただの逃げだ。
つらくて苦しい気持ちから、逃げたいだけだ。
その言葉が、ストンと真っ直ぐに俺の中に入ってきた。
「……あおい、さん」
「ありがとう。ヒナタくんのこと、一生懸命に考えてくれて。一緒に、悩んでくれて」
本当に、魔法がかけられたみたいに。
今まで苦しかったのが、気付けば楽になっていた。
〈時間を それまで待って〉
ほ、本当にこのステッキ魔法がかかっていたのかも。
「……ふむ。“待つ”ねえ……」
「あ、あのっ、あおいさんこれは……」
「大丈夫大丈夫。ヒナタくんには言わないよー」
「でもっ、これは彼に隠し事を」
「多分なんだけど」
「……はい?」
「ヒナタくんの場合、『アイくんは何か言ってなかったか』って訊いてくると思うの。もし今日二人で話していたことを知ったらね?」
だから、それにはこう答えればいい。
アイくんの口からは何も聞いてない、ってね。
「……あおいさん……」
「案外、逃げ道作るのって簡単でしょう?」
「それはそうですけど、バレたら怒ると思います……」
「怒るのはおかしいよね? だって訊き方が悪いんだもん」
「……あおいさん、九条くんって彼氏ですよね……?」
「うんっ。大好きな自慢の彼氏さんですよ」
そうして、やっぱり嬉しそうに彼女は笑う。
……俺が見た中で、一番の可愛い笑顔で。
「はい! それじゃあこの話はここまで。……どう? 明日は楽しめそうかな?」
「……はい。ほんと、どうしようもないほど頭が回る人のおかげで」
「ふふふ。それはよかった」



