すべての花へそして君へ②


 そして、本当に魔法をかけるように、指先でツンと俺のおでこをつついた。


「困ったときは苦しいときは、自分の道理に外れないように、上手く逃げ道を作るんだよ」

「……さっきのが、そうだと?」

「そう。わたしが、魔法でアイくんの気持ちの逃げ道を作ってあげたの」


 確かに、彼には『絶対に言わないでくれ』と言われただけで、『書くな』とは言われてはいない。
 けど、だからって結局は同じことで、彼の意思を無視することと一緒だ。


「アイくん」

「は、い」

「わたし、言ってないよ?」

「……え?」

「言ってない。誰も、『全部教えてくれ』なんて酷なこと、言ってないんだよ」


 それは逃げ道じゃない。ただの逃げだ。
 つらくて苦しい気持ちから、逃げたいだけだ。

 その言葉が、ストンと真っ直ぐに俺の中に入ってきた。


「……あおい、さん」

「ありがとう。ヒナタくんのこと、一生懸命に考えてくれて。一緒に、悩んでくれて」


 本当に、魔法がかけられたみたいに。
 今まで苦しかったのが、気付けば楽になっていた。


〈時間を それまで待って〉


 ほ、本当にこのステッキ魔法がかかっていたのかも。


「……ふむ。“待つ”ねえ……」

「あ、あのっ、あおいさんこれは……」

「大丈夫大丈夫。ヒナタくんには言わないよー」

「でもっ、これは彼に隠し事を」

「多分なんだけど」

「……はい?」

「ヒナタくんの場合、『アイくんは何か言ってなかったか』って訊いてくると思うの。もし今日二人で話していたことを知ったらね?」


 だから、それにはこう答えればいい。
 アイくんの口からは(、、、、)何も聞いてない、ってね。


「……あおいさん……」

「案外、逃げ道作るのって簡単でしょう?」

「それはそうですけど、バレたら怒ると思います……」

「怒るのはおかしいよね? だって訊き方が悪いんだもん」

「……あおいさん、九条くんって彼氏ですよね……?」

「うんっ。大好きな自慢の彼氏さんですよ」


 そうして、やっぱり嬉しそうに彼女は笑う。
 ……俺が見た中で、一番の可愛い笑顔で。


「はい! それじゃあこの話はここまで。……どう? 明日は楽しめそうかな?」

「……はい。ほんと、どうしようもないほど頭が回る人のおかげで」

「ふふふ。それはよかった」