パチパチパチと手を叩く彼女と、同じ目線に一応はなるけど、俺にその魔法のスッテキを使う意志はない。
でも、そのまま彼女に返そうとしたところで、彼女は俺にストップをかけてくる。
「待って待って。まだ準備が整ってないの」
「え? ……準備?」
「そう。言ったでしょう? 魔法のステッキだって。これを使えるようにするためには、魔法の呪文を唱えなければならないんだよ!」
そうして彼女は、その棒を俺にぎゅっと持たせたかと思ったら、念を送るように近くへと手を翳す。
けど、たとえ本当に彼女が魔法が使えたとしても、俺は約束を破りたくはない。彼の意思を、尊重してあげたい。
「……あおいさん、俺は――「ハアアア!」うわっ!」
「はい。これで魔法がかかったよ? これでもう、アイくんは地面に文字を書きたくなるのだ!」
彼女は狡い。
そんな笑顔を向けられてしまっては、本当に書きたくなってしまうじゃないか。
〈あおいさんのバカ〉
「あ。普通に悪口とか酷い」
「これは悪口禁止の魔法をかけなくてはいけませんな」と、再び木の棒の前で手を翳す。
その姿が表情が妙に真剣で、思わずぷっと噴き出してしまった。
「でも、言いません。ごめんなさいあおいさん」
「いやいや。別にわたし、アイくんに話して欲しいわけじゃないから」
「え? ……でも、知りたいんですよね?」
「あ。やっぱり知ってるんだね」
「はい。もうあおいさんは大体見当付いてたんだろうなと思ったので、それは隠しません。でも、それについては言えません。ごめんなさい」
「……アイくん」
ここで言わなかったら、やっぱり彼女を悲しませてしまうだろうか。
(でも俺は、女の子の涙よりも男の友情をとります。今回に限りっ)
あおいさんごめんなさいと、もう一度謝ろうとしたところでなぜかびろーんと耳を引っ張られた。
「アイくんってもしかして耳悪い?」
「え? ……人並み、だと思いますけど」
そしてそんなことを言われる始末。今のどの辺で、俺の耳が悪いと思ったのだろうか。
やっぱり賢い人が考えることは違うんだな。正直本気でそう思っていた。次に彼女が話す前までは。
「だからわたし、最初から言ってるでしょう?」
【大丈夫。そんなアイくん放っておけないもん。だから、一緒に楽しむために教えて欲しいな?】
――――ただ、教えて、って。
「あおいさん。それは屁理屈というもので」
「でも、わたし間違ったことは言ってないよ? 嘘だって言ってない」
「それは、……そうですけど」
「だから、確かにヒナタくんのことも心配だけど、アイくんが心配なのも嘘じゃないんだよ」
「……あおいさん」
「だからはじめに言ったじゃない。『何かあるなら教えて?』って。『じゃないと、せっかくの海楽しめなくなっちゃう』……って」



