すべての花へそして君へ②

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 あれから、熱海まで帰ってくる電車の中も大変だった。人の気も知らないで九条くんは気持ちよさそうに眠ってたし。


(……眠れないのはきっと、あのことが原因なのだろう)


【強くなりたい】

 彼がどんな思いでそんなことを言ったのか、きっとその全部を理解することは、到底俺にはできない。
 でも、俺と一緒にミズカさんの指導を受けはじめた理由のひとつには、“無心になりたかった”……そんな思いが、あったんじゃないかと思う。

 考え始めたところで、結論はもうわかっている。
 でも、考えることがやめられない。だから、ヘトヘトになるまで指導を受け死んだようにいつも眠るんだ。


(そんなことしてるってあおいさんに知られたくないから、これ関係の話は絶対に言わないでくれって言われてたのに……)


 レンったらさらっと言っちゃうんだもん。
 どうしてくれるんだ。あおいさんがちょっとでもおかしいなって思ったら……勘付きでもしたら。


(そういえばあおいさん、あのときなんて言ってたんだろう)


 声に出してはいなかったけれど、彼女はとても愛おしそうに寝ている彼へ微笑みかけていた。


(……それから、ものすごく美しかった……)


 プツリと、まるで周りの世界から切り取られたような。そんな空間ができていて。
 それが少し、怖くもあったんだ。


「アーイくんっ」

「ひあっ……!? ……あ、あおい。さん……?」


 そして玄関を出てすぐのところで、考えていた人が現れるという。本気で驚いてしまった。


「こんな夜遅くに一人歩き危ないよ?」


 急だったこともあり、この場を上手く切り抜ける方法がどこにも見当たらなかった。
 それに、つい先程まで彼女のことを考えていたせいか、頭の中を切り替えることができない。

 ……早く、この場を何とかしなければいけないのに。

“どうしてあのとき、あんな顔をしたのか”
“あのときあなたは、なんと言ったのか”

 ――チャンスはきっと、今しかない。
 一方でそんな誘惑の言葉が俺の頭を掻き乱し、彼女にこの疑問をぶちまけたくてしかたがなくなる。


「……何かあるなら教えて? じゃないと、せっかくの海楽しめなくなっちゃう」


 明らかに彷徨う視線に、彼女が不安そうな声を上げて、俺の誘惑へそっと背中を押そうとする。
 けど、ダメなんです。これは男と男の約束で……。
 あなたにだけは、バレてはいけないんです。言う勇気をためている彼の気持ちを、無駄にしたくないんです。


「大丈夫。そんなアイくん放っておけないもん。だから、一緒に楽しむために教えて欲しいな?」

「……相変わらず、上手にお話されるんですね」

「えへへ。ありがと」


 そうして一度、ゆっくりと瞳を閉じて。


「……実は」


 俺は真っ直ぐ、彼女を見つめ返した。