――――――…………
――――……
あれから、熱海まで帰ってくる電車の中も大変だった。人の気も知らないで九条くんは気持ちよさそうに眠ってたし。
(……眠れないのはきっと、あのことが原因なのだろう)
【強くなりたい】
彼がどんな思いでそんなことを言ったのか、きっとその全部を理解することは、到底俺にはできない。
でも、俺と一緒にミズカさんの指導を受けはじめた理由のひとつには、“無心になりたかった”……そんな思いが、あったんじゃないかと思う。
考え始めたところで、結論はもうわかっている。
でも、考えることがやめられない。だから、ヘトヘトになるまで指導を受け死んだようにいつも眠るんだ。
(そんなことしてるってあおいさんに知られたくないから、これ関係の話は絶対に言わないでくれって言われてたのに……)
レンったらさらっと言っちゃうんだもん。
どうしてくれるんだ。あおいさんがちょっとでもおかしいなって思ったら……勘付きでもしたら。
(そういえばあおいさん、あのときなんて言ってたんだろう)
声に出してはいなかったけれど、彼女はとても愛おしそうに寝ている彼へ微笑みかけていた。
(……それから、ものすごく美しかった……)
プツリと、まるで周りの世界から切り取られたような。そんな空間ができていて。
それが少し、怖くもあったんだ。
「アーイくんっ」
「ひあっ……!? ……あ、あおい。さん……?」
そして玄関を出てすぐのところで、考えていた人が現れるという。本気で驚いてしまった。
「こんな夜遅くに一人歩き危ないよ?」
急だったこともあり、この場を上手く切り抜ける方法がどこにも見当たらなかった。
それに、つい先程まで彼女のことを考えていたせいか、頭の中を切り替えることができない。
……早く、この場を何とかしなければいけないのに。
“どうしてあのとき、あんな顔をしたのか”
“あのときあなたは、なんと言ったのか”
――チャンスはきっと、今しかない。
一方でそんな誘惑の言葉が俺の頭を掻き乱し、彼女にこの疑問をぶちまけたくてしかたがなくなる。
「……何かあるなら教えて? じゃないと、せっかくの海楽しめなくなっちゃう」
明らかに彷徨う視線に、彼女が不安そうな声を上げて、俺の誘惑へそっと背中を押そうとする。
けど、ダメなんです。これは男と男の約束で……。
あなたにだけは、バレてはいけないんです。言う勇気をためている彼の気持ちを、無駄にしたくないんです。
「大丈夫。そんなアイくん放っておけないもん。だから、一緒に楽しむために教えて欲しいな?」
「……相変わらず、上手にお話されるんですね」
「えへへ。ありがと」
そうして一度、ゆっくりと瞳を閉じて。
「……実は」
俺は真っ直ぐ、彼女を見つめ返した。
――――……
あれから、熱海まで帰ってくる電車の中も大変だった。人の気も知らないで九条くんは気持ちよさそうに眠ってたし。
(……眠れないのはきっと、あのことが原因なのだろう)
【強くなりたい】
彼がどんな思いでそんなことを言ったのか、きっとその全部を理解することは、到底俺にはできない。
でも、俺と一緒にミズカさんの指導を受けはじめた理由のひとつには、“無心になりたかった”……そんな思いが、あったんじゃないかと思う。
考え始めたところで、結論はもうわかっている。
でも、考えることがやめられない。だから、ヘトヘトになるまで指導を受け死んだようにいつも眠るんだ。
(そんなことしてるってあおいさんに知られたくないから、これ関係の話は絶対に言わないでくれって言われてたのに……)
レンったらさらっと言っちゃうんだもん。
どうしてくれるんだ。あおいさんがちょっとでもおかしいなって思ったら……勘付きでもしたら。
(そういえばあおいさん、あのときなんて言ってたんだろう)
声に出してはいなかったけれど、彼女はとても愛おしそうに寝ている彼へ微笑みかけていた。
(……それから、ものすごく美しかった……)
プツリと、まるで周りの世界から切り取られたような。そんな空間ができていて。
それが少し、怖くもあったんだ。
「アーイくんっ」
「ひあっ……!? ……あ、あおい。さん……?」
そして玄関を出てすぐのところで、考えていた人が現れるという。本気で驚いてしまった。
「こんな夜遅くに一人歩き危ないよ?」
急だったこともあり、この場を上手く切り抜ける方法がどこにも見当たらなかった。
それに、つい先程まで彼女のことを考えていたせいか、頭の中を切り替えることができない。
……早く、この場を何とかしなければいけないのに。
“どうしてあのとき、あんな顔をしたのか”
“あのときあなたは、なんと言ったのか”
――チャンスはきっと、今しかない。
一方でそんな誘惑の言葉が俺の頭を掻き乱し、彼女にこの疑問をぶちまけたくてしかたがなくなる。
「……何かあるなら教えて? じゃないと、せっかくの海楽しめなくなっちゃう」
明らかに彷徨う視線に、彼女が不安そうな声を上げて、俺の誘惑へそっと背中を押そうとする。
けど、ダメなんです。これは男と男の約束で……。
あなたにだけは、バレてはいけないんです。言う勇気をためている彼の気持ちを、無駄にしたくないんです。
「大丈夫。そんなアイくん放っておけないもん。だから、一緒に楽しむために教えて欲しいな?」
「……相変わらず、上手にお話されるんですね」
「えへへ。ありがと」
そうして一度、ゆっくりと瞳を閉じて。
「……実は」
俺は真っ直ぐ、彼女を見つめ返した。



