けれど、ちょうどそう思っていたときだった。
「……葵、なかなか上がってこないな」
(え……?)
同じく甲板であおいさんを見ていたのであろう皇くんが、そう声を漏らしたんだ。
続けてレンやカオルが、酸素ボンベを背負っていたことを言っていて、一度二人して安堵の息を漏らそうとしたんだけど。
「はあ!? アオイちゃんに残りの少ない酸素ボンベ渡したかもしれないですって!?」
彼女の言葉に、全員の血の気が一気に下がるのを感じた。
「す、すみません。ちゃんと確認したはずなんですが。そのボンベがどこにも見当たらなくて」
「……っ、だったらまずいわ。急いで船をアオイちゃんの行った方に進めて!」
「エンジンを切っていたので、動かすのに時間がかかります……!」
「はあ!? なにやっとんじゃ!! このアホんだら!!」
そんな会話をしながらも、彼らは船を動かすため必死に動いていたけれど、俺らは事の次第を上手く飲み込めず、ただ呆然とすることしかできなかった。
――ただ、一人を除いては。
「アイ。これ持ってて」
瞬間、目の前がオレンジ色に染まる。
「……え。こ、これって……え?! ちょ、ちょっと九条くん!?」
投げられたのは彼のライフジャケットだった。
「大丈夫。準備体操は粗方した」
「っ、そういう意味じゃない! さすがに行かせられないっ」
船の縁に足を掛け、今にも海に飛び込んでいきそうな彼を必死に止める。
それを見ていた他のみんなも、大慌てで止めに来てくれたけれど……。
「っ、ごめん無理だ。待ってられない……!」
俺が掴んでいたパーカーからするりと腕を抜き、広い広い海の中へと、彼は飛び込んでいってしまったのだ。
「……っそれは、“今”のことか……? 九条くん……」
彼の真意は、彼が選んだ選択はわからない。
……いいや、本当はもう、わかっていた。
それが苦しくて悔しかったのに、そんな思いは彼が着ていたライフジャケットとパーカーにぶつけることしか、俺にはできなかったんだ。



