すべての花へそして君へ②


 本当に申し訳なさそうな声に、さっきまで全く外すつもりはなかった両手が、顔からゆっくりと剥がれた。……彼は、完全に顔を俯かせている。


「……ヒナタくん」


 呼んでも、返ってくるのはたった一音「ん」だけ。何回か呼んでみるけれど、返ってくる言葉は同じ。……だんだん、つらそうになるだけ。
 そんな俯いた彼の、生乾きの髪にすっと指を通す。


「……嬉しかったんだよ」

「……えっ」


 そう言って、やっと上がった顔には驚き。それから……ちょっとだけ、傷ついていた。


「はじめは何事かと思って、ただただ危ないと思って」

「……ん」

「けど、もしかしたら本当に危なかったのはわたしの方で」

「ん」

「……だ、だからね?」


 危ないことは、絶対にして欲しくない。それは間違って欲しくないんだ。
 でも、必死になってわたしを探しに来てくれたこと。心配してくれたこと。


「不謹慎だけど、それがどうしようもないほどわたし……」


 ……ただね、嬉しかったんだよ。


「……オレが、あんたを心配しないとでも」

「思ってないよ。思ってない」

「嬉しかった……って。そういうことじゃん。あおい、オレのこと全然わかってない」

「違うよヒナタくん。……それは違う」


 どうやったら、きちんとわたしの想いが嬉しさが、彼に届くだろうか。
 また言葉で? でも、さっきは届かなかったし。じゃあ、ここはいっちょ、裸で語り合うか? ……いや待て。男勝りではあるけれど、そこまでの勇気はないぞ、わたしには。
 う~ん、と。本気で逡巡していると、目の前の人、肩を震わせていらっしゃるんですけど。……ちょっと。ちょっとヒナタくん?


「ごめんごめん。ちょっと拗ねてみた」


 人が悪い。本気で嫌われたらどうしようって悩んだじゃないか。今の時間返して。


「いやあ、やっと手外してくれたね」


 言われてすぐ手を戻そうと思ったけど、壁にがっちり手首を押さえつけられてしまった。再びピンチだ。


「こっち見て」


 襲われるとわかっていて、そんなことができようか。


「言いたいこと、あるから」


 そんな手には乗らな――


「お願い」


 ……いつだってそうだ。結局断れないんだ。それをわかってて、切なげな声で呼ぶんでしょう?


「あおい……」


 ほんと、わたしのことよくわかってるね、ヒナタくんは。……いつかわたしが、彼に勝てる日は来るのかな。