本当に申し訳なさそうな声に、さっきまで全く外すつもりはなかった両手が、顔からゆっくりと剥がれた。……彼は、完全に顔を俯かせている。
「……ヒナタくん」
呼んでも、返ってくるのはたった一音「ん」だけ。何回か呼んでみるけれど、返ってくる言葉は同じ。……だんだん、つらそうになるだけ。
そんな俯いた彼の、生乾きの髪にすっと指を通す。
「……嬉しかったんだよ」
「……えっ」
そう言って、やっと上がった顔には驚き。それから……ちょっとだけ、傷ついていた。
「はじめは何事かと思って、ただただ危ないと思って」
「……ん」
「けど、もしかしたら本当に危なかったのはわたしの方で」
「ん」
「……だ、だからね?」
危ないことは、絶対にして欲しくない。それは間違って欲しくないんだ。
でも、必死になってわたしを探しに来てくれたこと。心配してくれたこと。
「不謹慎だけど、それがどうしようもないほどわたし……」
……ただね、嬉しかったんだよ。
「……オレが、あんたを心配しないとでも」
「思ってないよ。思ってない」
「嬉しかった……って。そういうことじゃん。あおい、オレのこと全然わかってない」
「違うよヒナタくん。……それは違う」
どうやったら、きちんとわたしの想いが嬉しさが、彼に届くだろうか。
また言葉で? でも、さっきは届かなかったし。じゃあ、ここはいっちょ、裸で語り合うか? ……いや待て。男勝りではあるけれど、そこまでの勇気はないぞ、わたしには。
う~ん、と。本気で逡巡していると、目の前の人、肩を震わせていらっしゃるんですけど。……ちょっと。ちょっとヒナタくん?
「ごめんごめん。ちょっと拗ねてみた」
人が悪い。本気で嫌われたらどうしようって悩んだじゃないか。今の時間返して。
「いやあ、やっと手外してくれたね」
言われてすぐ手を戻そうと思ったけど、壁にがっちり手首を押さえつけられてしまった。再びピンチだ。
「こっち見て」
襲われるとわかっていて、そんなことができようか。
「言いたいこと、あるから」
そんな手には乗らな――
「お願い」
……いつだってそうだ。結局断れないんだ。それをわかってて、切なげな声で呼ぶんでしょう?
「あおい……」
ほんと、わたしのことよくわかってるね、ヒナタくんは。……いつかわたしが、彼に勝てる日は来るのかな。



