だからまさか、海に入って自ら捜しに行くなんて、思いもしなかった。だから心配なんだ。
「大丈夫、かな……」
「きっと、……ううん。“絶対大丈夫”だよ」
そう言ってあげると、彼は一度驚いたようにこちらを振り返ったあと、少し困ったような顔で笑った。
そして手摺りに手をかけながら、再び海に視線を送る。
「待つのは嫌だ。待つぐらいならオレも一緒に」
「九条くんそれは……」
「いいんだよ。……わかってるんだ、できないことくらい。オレは何も、してやれない」
「……それは違うよ」
「でも、思うよ。考えるよ。もうどうにもならないことを。なんであいつなんだろうって。どうしてオレはこんななんだろうって。オレじゃなかったら、もしかしたら……って。バカみたいでしょ。女々しいよね」
「……もし仮に、俺だったら。一回くらいは、考えたよ」
「は? 何勝手に考えてんの。あいつはオレのだよ」
「でも、俺でも無理だった。多分誰も無理だよ」
「…………」
「君が考える“一緒に”が、たとえ無理だとしても、君ができる方法で、彼女の傍にいてあげたらいいんじゃないかな」
『えっ。……ちょ、ちょっと待ってくださいコズエさん!』
『待てと言われても、これはもう上に話が通ってることだから、私にはどうすることもできないわ』
『そんな……なんで大人は、そんな酷いことするんですか』
『だったらあなたは、あおいちゃんが地獄の孤独を味わえばいいというのね』
『そうじゃない! そんなわけないじゃないですか。……そうだ、九条くんは? 彼はこのことを知っているんですか!』
『ええ勿論。彼も納得してくれたわ。自分の口から、彼女に言わせてくれと』
やっぱり、彼女の言ったことは嘘だったのだろう。気付かなかったのだろう。
……堪えたんだね、彼女の前で。それはもう、必死に。
混ざり合う感情を抑えつけるように、ぐっと手摺りを握る彼の様子を見て、俺はそう確信した。
「……あ、九条くん! あおいさん多分あれだ!」
指差した方向を見れば、そこには異様な水柱が立っていた。そしてそれが、異常なスピードで動いている。
……ほんと、いつ見ても人間業じゃないんだから。
「……ふはっ」
「え? 九条、くん?」
「あれのどこが、“そんなに得意じゃない”んだろうね」
そんな人間離れしている彼女を見て、驚きもせずただ愛おしそうに笑う君の方が、よっぽど大物に見えなくもないけど。
今になっても度々思う。彼の彼女への想いは本当に大きくて敵わないんだと。わかってるくせにね。



