そんな彼の前にしゃがみ込み、下から覗き込むように彼を見上げた。
「だったらさ、期限を決めようよ。君が期限を越えても言えないようなら、俺からあおいさんに伝える。どう? 名案でしょ」
「……だめ」
「どうして? 言うのしんどいんよね。俺が代わりに言ってあげるよ?」
「だ……だめ」
そうして俺の肩を掴む彼は、まるで駄々を捏ねる子どものようでもあり、怖さに怯え、親へ必死に縋り付いているような子どもでもあり。
こんな彼は初めて見た。きっと、彼女にしかこんな顔にすることなどできないだろう。
だから、彼のために。そして彼女のために。俺は背中を押してあげたい。
「大丈夫。ちゃんとわかってるよ。俺も、ミズカさんもヒイノさんも、あおいさんのお父様もお母様も、もちろんシントさんも。君に全部任せてるから。だから、君から言ってあげて?」
きっと彼女も、その方がずっと嬉しいはずだから。
だから話を進めてその期限を決めようと思ったのだけれど、彼はやはり気が進まないらしい。
「でも、それ決めておかないとさ、俺の予想だと九条くん言わなさそうなんだよね」
「…………」
「ほら。やっぱり図星だ」
「だ、だって。言いたく、なくて」
「言ったらお終いなの? 九条くん」
「……え?」
それは、決して終わりの言葉ではない。
それは、これからの始まりの合図なんだ。
たとえそれが、つらく険しい道程の一歩目だとしても。永遠の刻を孤独に生きていくよりは、ずっといいんだから。
「それに、あおいさんも言ってたでしょ? 『お別れなんて絶対しない』って」
「違うよ。『お別れの言葉なんて一生言うつもりはない』って言ったんだ」
「細かいなあ」
「同じようで、ちょっと違うんだって」
「……え。まさか九条くん、そんな細かいことまで気にして……」
「あいつほどではないよ」
「いや……でも、結局は『お別れしない』って言ってるんでしょ?」
「違うよ。『言うつもりはない』って言ったんだよ」
「……九条くん」
「怖いよね言葉って。後ろに『今は』って言葉が隠れてた。『これから』はわかんないって、……言ってた」
「君はものすごく女々しいんだね。そして超が付くほどのネガティブ思考」
「そんな風にも、なるよ」
まあわからないでもないけどさ。でも、“今”だけでもそう思ってくれてるんだから、いいんじゃないのかな?
そんなこと言ったら『ポジティブだね』って返ってきそうだけど。



