すべての花へそして君へ②


 そんな彼の前にしゃがみ込み、下から覗き込むように彼を見上げた。


「だったらさ、期限を決めようよ。君が期限を越えても言えないようなら、俺からあおいさんに伝える。どう? 名案でしょ」

「……だめ」

「どうして? 言うのしんどいんよね。俺が代わりに言ってあげるよ?」

「だ……だめ」


 そうして俺の肩を掴む彼は、まるで駄々を捏ねる子どものようでもあり、怖さに怯え、親へ必死に縋り付いているような子どもでもあり。
 こんな彼は初めて見た。きっと、彼女にしかこんな顔にすることなどできないだろう。

 だから、彼のために。そして彼女のために。俺は背中を押してあげたい。


「大丈夫。ちゃんとわかってるよ。俺も、ミズカさんもヒイノさんも、あおいさんのお父様もお母様も、もちろんシントさんも。君に全部任せてるから。だから、君から言ってあげて?」


 きっと彼女も、その方がずっと嬉しいはずだから。

 だから話を進めてその期限を決めようと思ったのだけれど、彼はやはり気が進まないらしい。


「でも、それ決めておかないとさ、俺の予想だと九条くん言わなさそうなんだよね」

「…………」

「ほら。やっぱり図星だ」

「だ、だって。言いたく、なくて」

「言ったらお終いなの? 九条くん」

「……え?」


 それは、決して終わりの言葉ではない。
 それは、これからの始まりの合図なんだ。

 たとえそれが、つらく険しい道程の一歩目だとしても。永遠の刻を孤独に生きていくよりは、ずっといいんだから。


「それに、あおいさんも言ってたでしょ? 『お別れなんて絶対しない』って」

「違うよ。『お別れの言葉なんて一生言うつもりはない』って言ったんだ」

「細かいなあ」

「同じようで、ちょっと違うんだって」

「……え。まさか九条くん、そんな細かいことまで気にして……」

「あいつほどではないよ」

「いや……でも、結局は『お別れしない』って言ってるんでしょ?」

「違うよ。『言うつもりはない』って言ったんだよ」

「……九条くん」

「怖いよね言葉って。後ろに『今は』って言葉が隠れてた。『これから』はわかんないって、……言ってた」

「君はものすごく女々しいんだね。そして超が付くほどのネガティブ思考」

「そんな風にも、なるよ」


 まあわからないでもないけどさ。でも、“今”だけでもそう思ってくれてるんだから、いいんじゃないのかな?
 そんなこと言ったら『ポジティブだね』って返ってきそうだけど。